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            日常の風景   NO.0362
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忘帰洞再訪

勝浦温泉の「ホテル浦島」には 忘帰洞という有名な露天風呂がある。
去年の10月に訪れてからまだ1年も経っていないのに再訪。
太平洋の見えるこの巨大な洞窟温泉をわたしはかなり気に入っている。

去年は高校時代の友人との旅であったが、
今回のパートナーは家内。

早速、ひかりにあふれる太平洋に面した洞窟風呂の最先端に向かうが、
去年とは大分様子が違う。
湯船には6人か7人の先客の背中がずらりと並んでいた。

若い張りのある筋骨隆々とした見事な肉体である。
何となく圧倒されるものを感じながら右端の隅っこに
ちょこんと腰を下ろす。

そういえば和歌山は今、国体の真っ最中。
ホテルのロビーにも「わかやま国体特設カウンター」というコーナーがあった。
話を聞いていると予想通り若者たちは国体の選手だった。

ボリュームのあるあまりにも見事な肉体なので
最初は相撲の選手かなと思ったが山梨県のレスリングの選手だった。
後ろには目を持っていなくても現在の景色はよく見える。

鍛えぬいた弾力のある大きな背中の連なりの端に
張りのないヨレヨレ、シワシワのくたびれ切った肉体が
まるで糸くずのようにしがみついているの図。

「出るぞ」というリーダの一言に
「はい」という返事が野太く一声、全員が一斉にその場から消えた。
一挙手一投足の振る舞いに機敏さがあって気持ちがよい。

誰もいなくなった湯船の中央に移動しゆっくりと太平洋を眺める。
太平洋も一年前の景色とはかなり違う。
台風21号の影響だろう波が荒々しい。

まったりとしたぬるめの乳白色の温泉。
前方は野性味のある荒れた海。
景色とすればこちらの方が数段上である。

洞窟温泉の前にはごつごつとした岩がいくつもあり、
波が激しくぶつかる度にすざましい音と共に
波が激しく砕け散る。
東映映画のオープニング映像を実際に目撃しているようである。

岩礁に砕けた波の泡が弾ける音も趣がある。
目を閉じているとパチパチと泡が砕ける音に時間差があり、
右から左にツーと音が走るのがおもしろい。
夕立の降り始めのような、雷を予感させるうなりのようなふしぎな音。

音楽以前の原始のリズム。自然のオーケストラ。
きれいなメロディはないが雑音でもない。
これはまさに自然が歌うララバイ(子守歌)である。

大自然のララバイを聴きながらなら逝けるのが理想だなと、
つまらないこと(でも本音)を考えながら弛緩しきっていると、
陽光にキラキラ輝きながら空から何か舞い降りてきた。

ふんわりとした真っ白な羽毛である。
「えっ、天使の羽?」「まさか」
心の中でボケとツッコミをひとりで演じながら
洞窟の上を見ると3羽のハトがキョト、キョトと首を振っていた。



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sceneryの風景

9月の結婚記念日にはどこかに旅をするというのが
長い間続いてきた我が家の習慣。
9月にはこの名目で外国にもよくでかけた。

最近はもっぱら国内の近場。
どこかいい場所がないかなと探していたら、
ホテル浦島のパンフレットに行きあたったのである。

去年は鉄道の運賃まで含めて一泊1万5千円で安いと思っていたのだが、
今年は2連泊してひとり2万円。
お風呂と値段に魅かれての再訪でした。



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