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            日常の風景   NO.0366
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輝くトンネル

12月にはめずらしく雲一つない青空が広がっている。
湖北の琵琶湖も穏やかなブルーの湖面を太陽にきらめかせている。
久しぶりにマイカーでの長距離ドライブである。

気持ちがさわやかなので、なんか片岡義男の小説に出てくるような若者が
ドライブを楽しんでいるような気分。
走っている場所も見慣れているちまちまとした琵琶湖の湖北地方ではなく、
鎌倉の湘南海岸とかハワイのホノルルの海岸を疾走しているような。

朝起きた時にはいつもと変わらない少し退屈で平凡な一日があった。
それが3時間後には気分的にはハワイのホノルルである。
こんな日常のジャンプの引き金になったのは今朝の読売新聞だった。

第一面から目も覚めるような鮮やかなオレンジ色が目に飛び込んで来た。
道路の両側に続く大木の並木が紅葉していて見事なアーケードを形作っている写真。
「輝くトンネル」という題がついていた。

写真の記事を読んでみると場所は比較的近い。
わたしの住む街彦根から見れば琵琶湖の対面。滋賀県高島市マキノ町。
メタセコイアという落葉樹の並木がなんと500本、
長さ2.4kmに渡って続いているらしい。

「天気もいいし行ってみよか?」
と家内に声をかければ、
「うん」という素直な返事。
遊ぶことなら割とスムーズに物事がトントンと運ぶのが我が家の家風。

かくして思いがけない1日の始まりである。
出かけるまではずいぶんと遠いように思えたが、
いざ車を走らせてみると1時間半余りで呆気なく目的地に到着。

メタセコイアは木の形がとても整っている。
先端はシャープに尖がっているが
なめらかにふっくらとした輪郭はクリスマスツリーのモミの木によく似ている。

わたしたちと同じように新聞の記事を読んだのか、
そこかしこにぱらぱらと100人ぐらいのアマチュアカメラマンが集まっていた。
国道287号線沿いにあって案外車の通行量が多い。
だから車の間隙をぬって並木全体の写真をうまく撮るのは大変である。

マキノ町は四方を山に囲まれている。
近くにはスキー場もあるし、山々もいい具合に紅葉している。
天気はいいし、気分もハイ。並木に沿った小道を歩くことにした。

しばらく歩くと道路上に小川のような水の流れができている。
水道管でも破裂したのかと思ったが、
よく見れば本格的な冬に備えて凍結防止用のスプリンクラーのテストをしているようだ。

やがて小道は歩けなくなった。
車が水しぶきを巻き散らかして国道を疾走するからである。
仕方なく規則的に木が植わっている畑に入った。

畑には実のない栗のイガがそこら中に落ちている。
この辺りの畑はほとんどが栗畑のようである。
栗のイガを靴でギシギシと踏みながら散策をする。

きれいな風景を見ながらも歩む道はイガだらけ。
まるで人生そのものを見せられているような気もした。



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sceneryの風景

メタセコイアの並木はこんなところです
http://biwako-genryu.com/4seasons/post-8.html

本文で思わず引用した作家の片岡義男だが、
最近はときどき本ではなくタブレットで読んでいる。

インターネットで青空文庫という電子図書館がある。
http://www.aozora.gr.jp/
版権の切れた作家の作品を無料で公開している。

夏目漱石でも太宰治でもほとんど全作品が無料で読める。
ところが片倉義男は現在76歳、存命で版権はまだ有効なのに
この青空文庫に作品の一部を公開している。

古めかしい文体が多い青空文庫の中で、
彼の作品だけは乾いていて都会的で実にオシャレ。

片岡義男の小説は都会の喫茶店の片隅で
紙の本ではなく、タブレットで読むのにふさわしい洗練された作品。
わたしは気に入っている。無料で読めるというのがもっとも気に入っている。



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