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            日常の風景   NO.0369
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サルの思い出

今年はサル年。
日本の干支という文化は西洋人にはとても興味があるらしい。
僕はトリ、わたしはトラ、俺はヘビなんていう日本人の会話を聞くと、
「ちなみにわたしは何どしになるの?」
と、ほとんどの外国人が聞いてくると誰かのエッセイで読んだことがある。

わたしの母がサル年だったので、サル年には思い入れがある。
まわり年は12の倍数になるので、母も生きていれば今年で96歳か、
なんてガラにもなく感傷的になったりもするのである。

しかし干支も年末から年始にかけて話題になるだけで、
月日が足早に過ぎ去ってゆくと、年の後半期になると記憶が混乱錯綜して
「あれ、今年何どしだった?」といい加減な面もある。

サルに関しては母の干支という以外にわたしには忘れられない思い出がある。
NTTと呼ばれるより以前の電電公社時代の思い出である。

クロスバー交換機の定期点検に親局から遠く離れた従局に4〜5人で出かけた。
仕事も順調に終わり、さて帰ろうという段になったとき、
年配の先輩が「まだ時間があるし猿を見に行こうか」といった。

予定していた一日のルーチンは無事に終わったし、
すぐに親局に帰っても終了時間までとりたてて何もすることがない。
こんな提案はめずらしいことでも何でもなかった。
時間がゆっくりと流れている、のんびりとしたいい時代だった。

従局は国道沿いにあったが、車をちょっと走らせると、
渓流の音が絶えず聞こえてくる緑深い山すそに
餌付けした猿が集まる場所があった。
観光地にしようと地元の人が数年前から餌付けを始めていたのだ。

運のいいことに現場につくと30匹ぐらいの猿に、
作業着を着た係員がバケツに入れた餌を猿に撒いているところだった。
餌は穀物の麦の粒。
確か係員の人に訪ねて小麦だと教えてもらったような記憶がある。

猿が集まって撒かれた餌を食べる様子はユーモラスで楽しかった。
わたしも猿に何か餌を与えたかったが適当な食べ物の持ち合わせがない。
仕方なく後で猿に与えるつもりで、
撒かれた餌場から少し離れた場所に落ちている小麦を拾いだしたのである。

地面に落ちた小粒の小麦を拾うのはかなり難儀な根気のいる仕事で、
なかなか手のひらに一杯がたまらない。
夢中になって猿と同じような格好でしゃがみこみ地面だけを見つめて拾っていると、
突然まわりに何か異様な気配を感じた。

ふと顔を上げると目の前に数匹の猿の顔があった。
左右にも同じような顔があった。
いつの間にか猿に取り囲まれていたのである。

猿語は理解できないが、猿の表情は瞬時に理解できた。
みんな怒っていた。歯をむき出してキーキーと威嚇していた。
あわてて立ち上がり、持っていた小麦をその場に撒いて逃げだし事なきを得たが、
気づくのがもう少し遅ければ跳びかかられていたのかもしれない。

いまだに猿を見るたびにあの時の恐怖がふとよみがえることがある。



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sceneryの風景

大分前の話になるのだが、
足の踏み場もなかったわたしの部屋にベッドを運び込むために
一度思い切って不要なものはかなり捨てたつもりである。

工夫して正面に手作りの大きな棚も作った。
だからベッドのような大型の家具を入れてもかえって空間的には広くなった。
年末にその手作りの棚から大きなステレオスピーカーの
オーディオセットも廃棄した。

最初はそのオーディオセットのスペースに適当な棚を組み込み、
収納スペースとして利用するつもりだったのだが、
がらんと空いた空間の感じが悪くないのである。

逆にいま棚の上にぎっしりと詰まっている、
本、CD、MD、ビデオテープ、カセットテープなどは
この一年間ほとんど使用したことがない。
ただ漠然と残してあるだけでほんとうはもう不用品なのではないかと
疑い始めている。

とりあえずオーディオセットの空間はそのままにして、
今年はさらにもっとガランとした空スペースを増やしたいと考えている。



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