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            日常の風景   NO.0372
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親友との別れ

突然の訃報だった。
小学校時代からの付き合いだから、かれこれ60年になる。
親友と呼べる友を亡くしたのは初めての経験だから喪失感は大きい。
同じ年であるし彼岸が確実に近づきつつあることを実感させられる。

通夜と葬儀に参列したが、いずれも100人を超える弔問客で、
立派なお葬式だった。
お焼香を済ませ自分の席に戻るときに、
彼とよく飲みに行ったスナックのママを見つけた。

気の利いた誰かがママに友人の訃報を知らせたのだろう。
しかも目に涙をいっぱいに浮かべている。
みんなに気配りができて人気があった彼なればこそだと思った。

一緒によく飲みに出かけたが平均すれば年に2、3回というところだろうか。
お気に入りの赤ちょうちんか鮨屋で飲み、
仕上げにママのところに立ち寄るというのが通常のコースだった。

歌の好みは全く違う。
彼は演歌。わたしはニューミュージック。
彼はたまに石原裕次郎を唄うぐらいで
ほとんどの時間はわたしがマイクを握っていた。

キープしているボトルのブランデーを静かに飲みながら、
わたしが唄う中島みゆきや吉田拓郎の歌を黙って聴いていた。

彼は家族でちいさな自動車修理工場を経営していた。
従業員もふたり雇用していた。

自動車修理工場の後継者問題が生涯に渡る彼の悩みだった。
子供はふたり恵まれたがいずれも女の子。
修理の技術を持った男の子を婿養子に迎えて経営を引き継ぐというのが
彼の夢であり、口癖であり、一種の愚痴だった。

「親の思うように、そんなにうまく行くわけはないで」
というのが彼の愚痴を聞かされた時のわたしの決まりきった答え。

でも近年はさすがに諦めたのかそのことは口に出さなくなった。
やがて従業員のひとりに経営をまかせ、引退すると打ち明けられたことがある。
2年ぐらい前のことである。

振り返ってみるとその頃から体調がすぐれなくなったので
本人も多分癌だと薄々は気づいていたのかもしれない。
入退院を繰り返すようになっていったが、
彼の希望で家族以外は病状をはじめとして一切が秘密裡に運ばれていた。

偶然入院の事実が耳に入り、病院に見舞いに行ったことがあったが
極端に痩せた姿を見るのは辛かったし、
彼もあまり嬉しそうではなかったから早々に退散した。

やはり親しい友とは元気なうちにいっぱい会っておいて、
入院すれば退院するまで見舞いにも行かないというのが正解だと思う。
彼が実地にそのことを示してくれた。

前社長と新社長との引継ぎの挨拶状が届いたのが今から一か月ほど前。
今年になってからも毎日ずっと事務所には詰めていた。
再び体調がすぐれなくなって入院して4日目に彼は永眠した。
入院する3日前ぐらいに、新社長に
「工場をよろしくたのむ。これは俺からのお祝いだ」
と言って大金をポンと渡したと聞かされた。

通夜でも葬儀でも泣けなかったわたしだが、
この話を聞かされた時には目の奥がチカッと光ったような気がして、
涙があふれてきた。君の最期、格好よすぎる。



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sceneryの風景

葬儀には8名のクラスメートが弔問に参列してくれた。
2列に渡って最前列の一角を占有した。

こまめに世話をしてくれる仲間がいるので、
わたしたちは中学時代の同窓会を2か月に一度開いている。

偶数月の第一日曜日12時から。
これがすっかり定着して、地元の同窓生だけではなく、
その日に合わせて東京から大阪から金沢からと
遠くから参加してくれる人もいる。

このような訃報に接すると
飲んで唄って同じような思い出を繰り返しているだけなのだが、
とても大事な時間を共有しているのは間違いないし又大切にしたい。



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