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            日常の風景   NO.0380
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お掃除ロボット

長く続く日本の不景気の原因のひとつにも挙げられているが、
確かに最近はこれという欲しい物がない。

若い頃は大画面のテレビが欲しかった。ビデオも欲しかった。
いい音の出るスピーカが欲しかった。アンプも欲しかったし、
オープンリールの高級機も欲しかった。

ボーナスなどで何とか工面して手に入れた時は、
製品を見るたびにどきどきして、
しばらくは本当に幸せを感じたものである。

最近久しぶりに物に対するこのどきっを感じた。
テレビショッピングで有名な「ジャパネットたかた」が
掃除ロボット「ルンバ」の広告を新聞の一面を使って、
大々的に宣伝をしていたのである。

29980円。たかたらしい値段設定だが、
この広告を見た途端、安いと思った。どうしても欲しくなった。
もちろん家内には相談をしたが、
すでに決めたことを事後報告するような調子、勢いだった。

衝動買いといわれても仕方がないような買い方であるが、
わたしは衝動買いとは思っていない。
もう5年ぐらい前から、大型の電気店でルンバの実演があると、
その動きを長い間飽きもせずに見物していた。

当時は値段が7万円から8万円ぐらいしていた。
高級な大人のおもちゃだと認識していたので、
モダンでめずらしいものが大好きなわたしもすぐには手を出さなかった。

でもずっと関心は持っていて電気店に行くたびに覗いていた。
たかたの値段を見た時に今までとの比較で安いのはすぐにわかったのである。
送料無料、代引きの手数料も無料というのも憎い。
お客の心理をよく研究している。

その日にフリーダイヤルで申し込んだら、あくる日に製品が届いた。
直径が30センチぐらい。光沢のあるぴかぴかの黒をベースに
中央に銀色のボタンがあって、
その外側に蛍光塗料が塗ってあるような黄色のサークルが入っている。

小型のUFOを感じさせるモダンないいデザインである。
ためしに銀色のボタンを押してみると、
充電もしていないのにウィーンと唸りながらすぐに走り出した。

慌てて後を追う。
ルンバはセンサーで段差を認識して下には落ちないと
能書きにはうたってあったがやはり心配である。

玄関の上がりかまちに先回りして、両手を広げて待ち構えた。
やがてかなりのスピードでこちらに進んで来る。
ルンバは段差を認識するとぴくっと震えるように
急にスピードを落としそれから先へは進まず、
ぷいと方向を変えてUターンしていった。

「ピロピロピポーン」とルンバの悲鳴のような電子音がして
動きが止まった。あわてて裏返にしてみると、
細い紐がルンバのローラーに絡みついている。

あの日から週に2〜3回はルンバを走らせている。
子猫のように部屋中を駆け回るルンバは、
掃除機というよりは予想通り老人のかわいいおもちゃである。

バッテリーが減ってくると自分で勝手に
充電のベースキャンプに戻り、
「ピロピロピポーン」と元気な電子音を発声する。

わたしには「お掃除が終わりました」と聞こえる。
思わず「ありがとう、ご苦労様でした」とリアルな返事をしている。



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sceneryの風景

ルンバの使用には家によって向き不向きがある。
わたしの家の床はフローリングで
玄関を上がってドアを開けるとリビングがあり、
同じ空間にキッチンのフローリングが続いている。

物もあまり多くない家だと思う。
だからルンバ向きの家だともいえる。

ルンバをうまく使用するには準備が必要である。
電気のコードのようなヒモ類はローラーに巻き付いて故障する。
転落防止のセンサーはよく見ているが、
他の障害物は電子の目で見るという機能はない。

だからごちんとぶつかってからあわてて方向を変える。
障害物にそこそこのスピードでぶつかるから衝突音は案外に大きい。
傷つきやすい柔らかな家具は気をつける必要がある。

結局ルンバを動かす前には障害物をどける手間が必要である。
食卓の椅子をそのままにしておいたら、
テーブルの下に潜り込もうと何度も何度も椅子にぶつかるので、
いじらしくなって、椅子も部屋の隅に移動させている。

そして部屋の隅にはここからは出入り禁止という
レザービームのような小さなセンサーを作動させる。
このセンサーは付属品としてルンバについている。

ゴミ箱、座椅子、電気スタンドなどをかたずけていると、
その手間は掃除機をかけるのとあまり変わらなくなる。
でも、家内とランチに行っている間に、
ルンバが根気よく懸命に働き、帰ってくると掃除が完了しているのは
何にも代えがたいとてもいい気分なのである。



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