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            日常の風景   NO.0363
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忘れもの

二連泊するにしても、勝浦温泉をベース基地にしての近場の観光地といえば
熊野那智大社と那智の滝以外には適当な場所がない。
去年行ったばかりだが、今回も那智の滝を訪れることにした。

那智の滝へはJR那智勝浦駅から定期バスが1時間に1本ぐらいの割合で出ている。
那智勝浦駅は始発である。

乗客が乗り込み定期バスが今にも出発しようとしているとき、
「ちょっと待って下さいョ」
という声がどこからか聞こえた。
はっきりと聞こえたのになかなかバスに現れない。

「ガンバレ!どっこいしょ」
やがてひとりの老女が自分を励ましながら、やっとバスに乗り込んだ。
足の具合が悪いらしい。
飴色に光った太めの木製の杖にすがっている。

バスはやっとゆっくりと出発した。
その直後「あっ、傘を忘れた」と大きなつぶやき。
先ほどの老女である。
しかし最後の忘れたというつぶやきには諦めも含まれていた。

「どうしても今日いるのんケ」
と思いがけずマイクを通じての運転手の声。
老女はこのバスをよく利用している地元の顧客にちがいない。
老女は「日傘」と一言だけ返事をした。

「取に戻ったるケン」
驚いたことに乗客を乗せた定期バスは再び駅のロータリーまで戻った。

マイクで同僚に忘れものの説明をしている。
当然バスの待合室で忘れたのだろうと運転手は思っている。
同僚が探したが見当たらない。

「そこと違う喫茶店」
と老婆が叫んだ。
待合室の横に喫茶店があった。

バス会社の係員はあわてて、あせって、
走りながら動き、喫茶店から一本の傘を持ってきた。

「それと違う。黒いの、黒い日傘」
やっと老婆の日傘が見つかった。
「ありがとう」と老婆は心からうれしそうにお礼を言った。

定期バスがたったひとりの乗客の忘れ物を取りに戻る。
普通の街でなら信じられない光景だ。

定期バスであっても乗客のほとんどが旅行者か地元の年寄り。
何時に着かなくてはならないという旅ではない。
急いでいる人はひとりもいない。

のんびりとした、なんかいい景色をみせてもらったという、
後味のよい爽やかな印象が残った。



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sceneryの風景

ヨーロッパのシリア難民をテレビで見ていると、
悲しみと絶望感を覚える。

ヨーロッパ全体で16万人の難民をなんとか受け入れたとしても
まだまだ400万人以上の難民が助けを求めているので、
解決することは不可能に近い。

結果から振り返ってみると強権で独裁者だった、
イラクのフセイン大統領やシリアのアサド大統領も、
独裁者だからこそ、様々な矛盾、不満が抑えられていたのだろう。

シリア難民の根本原因を作ったのは
紛れもなくアメリカの軍事行動である。

中国も人権などは無視しての独裁でなんとか収まっているような気がする。
軍事力を背景とした中国の傲慢な態度には腹立たしい点も多々あるが、
あまり追いつめない方がいい。

とにかく軍事力では何も解決できないし、解決にならない。



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