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            日常の風景   NO.0395
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バリ島の祈り

チャイムが鳴ったので玄関に急ぐと、
透明の厚ガラスのドアの向こうに見知らぬ女性が立っている。
民族衣装で正装した中年の女性で手には大きな籠をかかえていた。

布を巻きつけたようなシンプルなプリント模様のスカート、
きちんとクリーニングされた黄色のレース地のシャツ。
腰には込み入った飾りのついたバンドを巻いている。
黄色、赤、ブルー。熱帯地方らしいカラフルなデザインである。

わたしが覚えたてのインドネシア語で
「こんにちは」といいながらドアを開けると、
女性は丁寧に腰を落として一礼をし
慣れた様子でそのまますたすたと中に入ってきた。

30畳はあるだろう大きなリビングルームを越え、
リビングの向こうにあるプールも越え、
プールのまだ向こうのやや低くなっている芝生の小スペースで
やっと足を止めた。

見ていると、地面に敬虔なお祈りを捧げ、それが終わると
籠から取り出した小さな箱のようなものをそっと置いている。
神様へのお供え物だということはすぐに理解できたのだが、
外国人が借り切っているヴィラの中にまで。
一体どうなっているのだろうと訳がわからなかった。

彼女が立ち去ってから、お供え物を詳細に観察してみると、
小さな箱は筍の皮のようなもので簡単に編まれ、
中にはご飯、原色の赤や黄色の花びら、緑の藻のような植物、
上には一本の細い線香が横たえられ煙をくゆらせていた。

わたし達のヴィラだけで5ケ所ものお供え物が置いてあった。
英語が少しできる22歳の若いメイドに訳をきいてみると、
どうも自治会のような組織があり、交代で近所を毎日回っているのだという。

ガイドブックにバリ島が「神々の島」と形容される意味がよくわかった。
バリ土着の信仰、バリ・ヒンドゥーのこれが日常なのだ。

わたしたちのヴィラは田んぼに囲まれたかなりの田舎だったが、
お寺は周りにやたらに多かったし、
日本でいうお地蔵さんのような祠もいたる場所にあった。
道端にも聖なる場所はいっぱいあってお供え物が途切れることはなかった。

あらゆる場所に神様がいる。いいなと思った。
これが本来の宗教の有り方だとも思った。
自分たちだけがずっと信じていて、
祖先から受け継いだ習慣をずっと守り続けている。

自分たちの信仰を誰に押し付ける訳でもなく、
信じている人も信じていない人も
何となく微笑みを返したくなるようなバリ島の真摯な祈り。
バリ島はほんとうに神様の島でした。



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sceneryの風景

娘婿が勤続30年のご褒美にとまとまった休暇と、
旅費が会社から支給されることになった。
娘に誘われてわたしたちもその旅行に合流することにした。

もう海外旅行は卒業と決めていたので、実に10年ぶりのことになる。
パスポートも改めて取り直した。
行く先はインドネシアのバリ島。8日間の旅である。

娘の知人がオーナであるヴィラを借り切ることに決まった。
メンバーは私、妻、娘夫婦、男の子の孫、
それに隣に住む息子の娘、小学校6年生の孫も連れて行く。

合計6名。
寝室が2部屋、トイレが3ケ所、30畳のリビング、
プール付きの豪華なヴィラです。

メイドが毎朝朝食を造りに来てくれて、
ベッドメーキングや掃除もしてくれ、
決められた籠の中に入れておけばクリーニングまでしてくれます。

ちょっとした大金持ちの気分です。
ですが日本では考えられないほどの安い料金で、
すべてが込で一日当たり13000円ほど。

今回のような大人数で行くととても値打ちがありました。
ビラはこんな雰囲気です。
https://goo.gl/maps/a89XRgLRZmR2



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発行者 scenery
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HP 日常の風景
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