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            日常の風景   NO.0399
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バリ島で迷う

ゆるやかな坂道になっていて、
まわりはよく手入れされている棚田がどこまでも続いていた。
遠くのココナッツツリーの先端が西日に光ってきれいだった。

わたしと家内と小学校一年生になる孫は、
ウブド郊外の典型的な田舎道をとぼとぼと歩いていた。
自転車がやっとすれ違えるぐらいのあぜ道で舗装はされていない。
所々に外国人用のヴィラも見かけた。

すばらしい景観で素敵な散歩道なのだが、
わたしは心の底に大きな不安を抱えていて楽しめなかった。
ここがどこかよくわからない場所で、
タクシーの運転手に無理やり車から降ろされたのである。

わたしにも落ち度はあったが、
すれっからしで心が荒れている町のタクシードライバーだった。
バリ島の最後の日に出会った初めての悪い人だった。

帰る方向だけは把握していた。坂道を上る方向である。
だがこの坂道がどこか主要な道路に
つながっているのかどうかまでは確かでない。
このままずっと棚田が最後まで続いている可能性もあるのだ。

ようやく車が走っている道路に行き着いたときはほっとした。
この道路に見覚えもあるような気もしたので、
早速付近の人にヴィラの住所を見せて訊いてみた。

でも住所を見せても誰も知らない。
言葉は通じないが、ボディランゲージで言っていることはわかる。
田舎なのでタクシーも走っていない。

困り果てて、マッサージパーラの看板を偶然見つけたので、
思い切って中に入って訊ねることにした。
入り口近くの受付に若い女の子が座っていた。

小柄でくりくりとした目を持つ、きびきびとした感じの女性だった。
その娘に住所を見せて訊いてみたが
彼女も気の毒そうに首を横に振るばかりである。

しかし彼女は住所の下に書いてあった、
ヴィラの管理人の携帯番号を見つけると、
自分の携帯を取り出して管理人に電話を掛けてくれたのである。

管理人と彼女はすぐに話が通じて
ここまでタクシーで迎えに来てくれることになった。

仕事の邪魔になるといけないので、店の外に出ようとすると、
彼女は受付の前にある待合室のソファーで待っているように
勧めてくれた。

結果から見ればこれは本当に助かったのである。
タクシーが迎えに来るのが一時間近くかかり、
夕暮れはもうすっかり夜の闇に包まれてしまっていた。

その間、まったく見ず知らずのわたし達への親切は半端でなかった。
ときおり訪れてくるお客への対応。
それが済むとわたし達への気遣いで何度も声を掛けてくれた。

運の悪いことに待ちくたびれて退屈した孫が、
店の中で飼われていた鯉の池にぼちゃんと落ちて
体中をずぶぬれにしてしまったのである。

おろおろと恐縮するわたし達を尻目に、
彼女はてきぱきと店からバスタオルを持ってきて、
孫の衣服を全部脱がし、バスタオルですっぽりと包んで、

「バスタオルはもう返さなくていいですよ」
とにっこりと微笑んでくれた。

バリ島で初めて悪い人に出会ったが、
おかげでお釣りがくるような素晴らしい女性に出会えた。
感謝である。



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sceneryの風景

バリ島で最後の日はそれぞれが思い思いの場所に出かけることにした。
娘と孫娘は街へショッピング。
娘婿はヴィラの近くを散策。

わたしと家内はどうしても行きたかった
ウブド郊外のネカ美術館に行くことにした。
静かで素晴らしい作品群を満喫して、
いざ帰ろうとするとタクシーがなかなか見つからないのである。

やっと見つけたタクシー。
いつもよりは高い値段を吹っ掛けられたが、止むを得ない。
所がタクシードライバーはヴィラへの道を知らないのである。

不案内なわたしが指示することになった。
来た道をそのまま帰ろうとしたが一方通行の道にぶつかり、
仕方なくその次の道を同じ方向に曲がってもらった。

これが大間違いで、袋小路の路地に迷い込み、
にっちもさっちも行かなくなってしまったのである。
止むを得ずタクシーを降りた。

でもこれは完全にわたしの判断ミス。
どれだけ文句を言われても何も知らない外国なのである。
安易にタクシーから降りるべきではなかった。

でもその代わりにすばらしい女性と知り合うことができた。
帰国してすぐに彼女にもらった名刺に書いてあった
メールアドレスにお礼のメールを頑張って書いた。
彼女はかなり流暢な英語が話せたし日本語もすこし勉強していた。

彼女からはすぐに返信があって、
その後2、3回やりとりがあったが、
いかんせんメル友になるには年が離れすぎている。
残念!!。



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発行者 scenery
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