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            日常の風景   NO.0384
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銀杏の時間

ラグビーのボールを半分に切って、
あとから張り合わせたような形をしている殻の銀杏。
いちょうの種であるがつくづくバランスの取れた見事な形だと思う。

まさか漂白はしていないと思うが、
光沢のある陶器のような白い色や、
殻の表面にかすかに浮かんでいる繊維の流れも悪くない。

そんな銀杏を丈夫な紙袋に入れて、
電子レンジに放り込み、待つこと1分30秒。
レンジの中でボンボンと派手な爆発音がひとしきり鳴り渡ると
熱々銀杏の出来上がりである。

10時か15時頃に
家内とふたりで熱々の銀杏を食べるのが
この2か月間ほどの習慣になった。

安い買い物ではないが互いに10粒余りと、
少しづつ食べているのでそれほど高いものでもない。
まあ、ピーナツよりは高く、栗よりは安いといったところだろうか。

銀杏は茶わん蒸しに入っている実を食べるぐらいで、
おやつとして食べるというようなことはまずなかった。

もちもちとした心地よい食感と、甘いとも苦いとも旨いとも形容しがたい
不思議な味に魅了されすっかりハマってしまった。
本当に銀杏は銀杏の味としか表現できない独特のものである。

袋から取り出した銀杏は、半分ほどは殻が弾けて
緑の実をのぞかせているが、もう半分は堅い殻のままである。
仕上げの具合はこのあたりがちょうどよい。

最初はペンチを使って堅い殻を砕いていた。
だが殻がペンチから滑ったり、
力を入れ過ぎて中身をつぶしたりして散々だった。

ためしに100円ショップで捜してみると、栗や銀杏の殻に使用する
滑り止めのギザギサがついた専用の器具が売っていたのである。
これはほんとうに便利な器具だった。
ギザギザの部分に円い銀杏の角を挟んで少し力を加えると簡単に割れる。

こうして食卓にふたり並んで銀杏を黙々と食べる。
殻から実を取り出すと、実は薄皮をまとっている。
それも見事なツートンカラーである。

ちょうど中ほどからピーナツのような茶色の皮と
少しごつごつとした感じの白い皮。
ふたつ別々の皮のように見えるが一枚の連ながった皮である。

この皮はしっかり実に貼りついていてなかなか剥きにくい。
苦労した挙句つるりと宝石のような黄緑の実が取り出せたときは
一種の達成感のようなものがあり嬉しい。

とにかく銀杏を食べるのには時間がかかる。
老夫婦が黙々と手先を動かして同じ作業をしている。
物は言わぬがこれが会話なんだとわたしは自己満足しているのであるが、
何年夫婦をしていても男と女は根本的に考え方が違うので、
隣のパートナーがどう思っているかはよくわからない。



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sceneryの風景

伊吹山のふもとに父親から引き継いだ柿畑を持っている友人がいる。
15、6本の柿が植わっている立派な畑で、
彼は丹精して柿を育てているが、商品にする気はないらしい。

家だけで食べるのなら柿の木一本もあれば十分なので、
高校時代の友人一同を彼は毎年柿狩りに招いてくれる。

伊吹には伊吹そばという名物のそば屋があり、
そこで昼食をしてから柿狩りに出かけるのであるが、
4〜5人の気の置けない友人ばかりなので、
軽いランチのつもりが、そこそこの宴会のようになってしまう。
もちろん、ボランティアで引き受けてくれた運転手は飲まない。

そば屋のとなりが「道の駅」になっていて、
ぶらりと見ていると誰かか袋入りの銀杏を買っていた。
「これ、どうやって食べるの?」
と聞いたのが、銀杏との出会いである。

わざわざ伊吹まで出かけなくても、
彦根の農協の販売店でも売っていることがわかった。
おかげでどびんとした毎日の習慣にちょっとだけ変化がついた。

やはり具体的なアクションが日常ルーチンの変化にもつながる。
年を取れば取るほど大事な教訓だと思う。



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