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日常の風景 NO.0393
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騎士団長殺し
図書館の順番がやっと回ってきたので、
村上春樹の新刊「騎士団長殺し」をようやく読み終える。
第1部顕れるイデア編と第2部遷ろうメタファー編の2冊である。
年を取るにつれ長編を読む根気がなくなる。
本に挟んであった
「次の予約があります。なるべく早くお返しください」
のしおりがなければ2週間ぐらいで読み切れたのか疑問である。
やさしいエンターテイメントではない。
読むのにかなり骨が折れる本である。
小説を読み終えての感想は、
現時点での村上文学の最高到達点であり最高傑作だと思った。
でもこのような評価は20年以上も彼の世界にどっぷりと浸かっている
コアな彼のファンだからこそかもしれない。
わたしの家内もかなりの本好きだが、村上作品は読まない。
わからないという。
多分村上春樹の名声、評判、コマーシャリズムなどに煽られて、
この本を購入した読者は途中で投げ出した人も多いのではないだろうか。
「目に見えることだけが現実だとは限らない」
彼は一貫してこのテーマを追い続けている。
理屈に合わない非科学的で神秘的な世界を執拗に追いかけている。
彼の表現力、描写力はずば抜けていて、
どれだけ不思議な世界観でも文体の腕力でその世界に読者を
引きずり込んでしまうというか納得させられてしまうというか、
緻密な作者の計算のもとで読者の心は揺さぶられるのである。
それにしても村上春樹のあらゆる芸術に対しての造詣の深さには
感服してしまう。彼の小説には常にクラッシックなりジャズなりの
音楽が鳴り響いているのはよく知られているが、
今回は音楽だけではなく絵画が見事な道具として使われている。
彼がわたしたちにどうしても伝えたい彼の「イデア」や
彼の「メタファー」を文章で明示的に伝えるためのツールとして
今回は絵画という芸術媒体を持ち込んできた。
鮮烈な表題にもなった「騎士団長殺し」というのは、
有名な日本画家が描いて天井裏に隠した大きな日本画である。
主人公がこの日本画を見つけ出すところから
小説は大きく動いてゆく。
村上春樹は小説の中でしか存在しないこの絵画を、
文章で詳細に描写するだけで、
確かに見事な傑作であることを読者に納得させる。
この絵画が異界への入り口になったり、
絵画から60cmぐらいの騎士団長が
イデアとして飛び出てきたりする。
あり得ないことだが、あり得る話として
小さなディテールまで詳しく語られる。
もう一つ感心したのが、騎士団長の話し言葉まで、
村上春樹が発明したことだ。
「あらない」という否定形である。
「あたしは霊ではあらない。あたしはただのイデアだ」
という具合に使われる。春樹が新しく開発した文体である。
この書き下ろしの小説は8回も書き直されたと
何かの本で読んだことがある。
完成度はそれほどに高いと思う。
彼のイデアとメタファを読者に出来るだけ分かりやすく説明するために
常に結論が先にさりげなく書かれていて、読者が混乱しないように
あらゆる場面で工夫されているのがよくわかる。
わたしは自信を持ってみんなにこの小説を読むことを勧めたい。
「騎士団長殺し」は現時点での村上文学の最高到達点であり
最高傑作だと思う。
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sceneryの風景
村上春樹の新作が出ると、レコード会社、CD販売店の
クラシック音楽担当者は忙しくなるということを聞いたことがある。
「騎士団長殺し」という絵画は村上春樹の完全な創作なので
見つけようもないが、小説に出てくる音楽は、
指揮者が誰で、どこの楽団の演奏という情報まで入っているときが多い。
ジャズやロックもときどき出てくるが、
今回の音楽の主役はオペラである。
モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」と
リヒャルト・シュトラウスの「薔薇の騎士」
わたしはあらゆる音楽が好きだし、
オペラのアリアを聴くのは嫌いではない。
でも基本的にオペラは苦手である。
苦手というより全曲を通して聴いたオペラはひとつもない。
今回もユーチューブで「薔薇の騎士」の一部を聴いたが
それなりにまあまあ、好きな人もいるのだろうな、
という程度の感想。
でも村上春樹の小説で、知らない曲が何度も流れていたら、
一度はユーチューブか何かで障りだけでも聴いた方がいいかもしれない。
自分でも気づけなかったような意外な感性が発見できるかもしれないし。
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発行者 scenery
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