*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            日常の風景   NO.0394
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

連着町の腹痛石

城西小学校といえば、わたしの母校であり、
わたしの孫娘が現在もかよっている小学校である。
その小学校が「城西史跡めぐり」という活動を計画して、
参加者を募集していた。

「地域の歴史再発見」という副題も気に入って家内と参加することにした。
別に何も期待はしていなくてみんなで2時間ほど散歩をするつもりだった。

当日はラッキーなことに曇り。
炎天下を汗をかきながら歩くのを覚悟していただけにホッとした。
小学生の子供たちが25人ぐらい、大人が15人ぐらい集まった。

最初の目的地は「腹痛石」
城西小学校の裏手にある細い路地の片隅にひっそりとある、
つるりとした丸いこの石の存在はわたしも昔から知っていた。

軽乗用車がやっと通れるぐらいの細い路地。
電柱のそばにあるので、陰に隠れて見過ごしそうであるが、
石の上には立派な銘板が刻まれていた。
「連着町の腹痛石」と見出しに書いてある。
れんじゃくまちと読む。

腹痛石の前に40人が集まると、細い路地は完全にふさがれてしまう。
事実後ろから来た軽トラックがしばらく止まっていたが
とうとう直進することを諦めてしぶしぶ右に曲がった。

郷土史家のひとりが腹痛石の説明をしてくれた。
驚いたことにこの細い路地が平安時代には
巡礼街道と呼ばれるメインロードだったという史実である。

路地の突き当りには中堀があり、石垣があり、
彦根城の天守閣もここからよく見える。
あのお城が出来る前の話ですと郷土史家は彦根城を指さした。

彦根城が建立される以前は、もちろん目の前の堀も石垣もない。
彦根山には彦根寺と呼ばれる霊験あらたなお寺があり、
全国的にも有名な観音霊場として知られていた。

平安時代には京の都からも多くの人々が参詣に訪れたのである。
連着町というのも、この場所で旅の道中に背負う連着をほどき、
この腹痛石に座ってゆっくりと旅の疲れを癒したかららしい。

当時はこのような石がこの街道にいっぱいあったらしいが、
時代が変化するにつれ現存するこの石がたったひとつ残された。

江戸時代だろうか町の古老が千年以上もの歴史あるこの石を
長く子孫に伝えたいと、さわれば腹痛を起こすと言い触らし、
いわば聖なる石として現代に残されたわけである。

この細路地はわたしが現役で勤めていた頃、
事務所に徒歩で通勤するのに何度も通った道である。
近くの慣れた道なのに今まで史実を全く知らなかった。

この事実を知っただけでも今日この行事に
参加してよかったと心から思った。



----------------------------------------------------------------------
sceneryの風景

この由緒ある連着町という名前は現在は
本町3丁目という身も蓋もない町名に変更されている。
もちろん本屋とは何のゆかりもない。

本町3丁目と変更される以前は、
連着町だけではなく、職人町、桶屋町、中魚屋町、下藪下町の
5つの由緒ある町名から構成されていたのである。

郵政事業には極めて合理的な変更であったと思われるが、
こうして地学的に貴重な町名が失われ、
歴史さえ忘れ去られてゆく。

今回の行事でほぼ最後に訪れたのが、
琵琶湖の近くにある長曾根虎徹井戸である。
石田三成の時代にこの地域では有力な刀が作られていた。

刀作りにはいい水が不可欠らしく、
この辺りの水は刀作りには向いていたらしくて井戸だけが残っている。
虎徹の刀というのは江戸ではトップクラスの名刀だったらしい。

新選組の隊長である近藤勇の名セリフ
「今宵の虎徹はよく切れる」について
誰かが郷土史家に訪ねた。

「近藤勇の虎徹、あれは偽物です」と史家は明解に応えた。

本物の虎徹は大名クラスしか持てなかった一品で、
彦根城博物館にも井伊家の虎徹はわずか一振りしかないとのことだった。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@zd.ztv.ne.jp
HP 日常の風景
http://www.zd.ztv.ne.jp/scenery/

----------------------------------------------------------------------
日常の風景が本になりました。ご覧ください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/book/book.html

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www.zd.ztv.ne.jp/scenery/ からお願いします

----------------------------------------------------------------------