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            日常の風景   NO.0391
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夜の式場

ホテルのロビーにはまだサミットの雰囲気が残っていた。
プレスの舞台がそのまま残されていて机の上には
G7のそれぞれの国の旗が扇のように整然と並べられていた。

「オバマ大統領はどの部屋に泊まったのですか?」
わたしは全くの野次馬根性でホテルの従業員に聞いた。
「いえ、ここはメイン会場ではありませんでしたので・・」
と気の毒そうに答えてくれた。

わたしはそれまでこのホテルがサミットの会場だったと
信じ切っていたのである。
このホテルはサブ会場で何らかの役割を果たしたらしいが、
そんなことはもうどうでもいいことである。
勘違いしていた自分を自分で笑っていた。

ホテルのわたしたちの部屋から眺望を見下ろすと
リアス式海岸特有の複雑な地形が一面に広がっている。
どれが半島でどれが島なのかよくわからない。
正面には志摩スペイン村の全体がかなりよく見える。

よく考えてみれば伊勢志摩サミットが開催されてから
まだ1年しか経過していないのだ。
世界の流れが速すぎてもうずいぶん昔のような気がする。
去年の今頃はオバマさんもまだ大統領だったのである。

いつも感じることだが、年寄り夫婦の旅は、
夕食を済ませてしまうと床に就くまでの時間、何もすることがない。
かといって二人とも旅に出てるのに、テレビを点けるのは嫌いである。

仕方なく「もう、十分に飲んだのに・・」という
家内のしかめ面を横目に自動販売機からビールをごとんと取り出し、
又続きを飲むことになる。

ビールを買いに行くときにエレベータの中で「館内のご案内」を
詳しく読み、13階に展望室があるのを見つけた。
家内を誘って展望室に昇る。

展望室は白い部屋だった。
窓には黄昏の空と海が映り込み紺碧のブルーに輝いていた。
その窓には天女の羽衣のような柔らかそうな薄いレースが
白いさざ波のように上部を飾っている。

椅子が整然と並べられていて、造花だろうか白い花束の円錐形スタンドが
一定の間隔できちんと置かれていた。

この部屋は普段は葬儀場として使われているのだ。
わたしの第一印象はそうだった。
だがよく見れば白い花は菊ではなくて薔薇だった。
結婚式場だったのである。

このところやたらお葬式に出席する機会が多い。
結婚式にはもう何十年も招かれたことがない。
だから年寄りらしい典型的な勘違いには違いないが、
結婚式とお葬式。
人のいない式場だけの雰囲気はとても似ている。

結婚は人生の墓場なんて皮肉なことを言うつもりは全くない。
ただ振り返って人生を見れば結婚式とお葬式。
ふたつの式が立て続けに行われる程に短いのだと感じない訳でもない。
去年のオバマさんももうすっかり過去の人だし。



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sceneryの風景

東京都議選の結果。
多数のおごりに違いない最近の強引な政府の政治運営に
お灸をすえるという意味でも
最初は拍手をしながら見ていました。

でも余りにも極端な都民ファーストの圧勝。
徐々に無条件では喜べなくなってきました。
本当にこれで大丈夫なの?というアラームが鳴ります。

風さえ吹けば政治理念などはどうでもよくて、
小池知事の都民ファーストというだけで当選してしまう。

国会議員とは違って地方の議員なのだから
日頃から地道に誠実に政治活動をしてきた
落選議員も多いはず。

日本の民主主義はまだまだ成熟していません。
政治を批判しても、わたしも含めてみんな評論家で、
具体的なデモを起こす馬力もありません。

風が吹けば明日にでも軍国主義にでも
何にでもなれる国民だと改めて感じました。



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