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            文章スケッチ   NO.0014
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ある哲学の番組

ニュース以外にオンタイムでテレビを見ることは滅多にない。
ほとんどの番組は録画して取りためたものを見ている。
好きな時間に気分に合わせて見られるし、時間の節約にもなる。

NHKの朝ドラは主題歌の部分をカットすれば1分の節約。
大河ドラマなら2分30秒の節約になる。
連作のドラマなら全部収録が終わってから集中的に見る。
この年になっても、いや、この年だからこそ時間は大切に使いたい。

録画をするために新聞のテレビ番組欄は丁寧に見る。
テレビ番組欄からわたしの目に飛び込んでくる3つのキーワード。
「宇宙」「科学」「哲学」
キーワードに関連した特別番組はまず見落とさない。

見落とさないが、なかなか見られない。
録画された番組がたまってゆく一方なのである。

最近見たBS1スペシャルの
「欲望の時代の哲学〜マルクス・ガブリエル日本を行く〜」
も非常に興味深い番組だったが7月に録画したものだった。

宇宙や科学の話は大好きだが、数学は全くのオンチで苦手。
哲学の話にも興味はあるが、最後まで読み通した哲学書はゼロ。
日本語で書かれているにも関わらず、哲学書の文脈は難解きわまる。

間に立って優しく解説してくれる翻訳者がわたしには
どうしても必要な世界なのである。宇宙も科学も哲学も。

優れた解説者が解きほぐす哲学の世界は、
天才的な哲学者が言葉の意味を究極の集中力で
考えに考え抜いた思考結果だからこころに残る。

カント、デカルト、ヘーゲル、ニーチェ、ルソー、サルトルなど、
解説者の話は必ずその思考に至った時代背景に触れる。
哲学者はその時代の言葉を操る寵児とも言えるのかもしれない。

前置きがかなり長くなったがマルクス・ガブリエルは
典型的な現代という時代の寵児である。
もの静かで気難しい地味なタイプの学者肌ではない。
今の時代に合った超ド派手で、マスコミに乗るのも計算ずく。

でも言葉の切れ味は天才的に鋭く、現代人を魅了する。
哲学者でありながら、コピーライターのような要素も持っている。
古典的な哲学者には決してなかったタイプである。

彼は1980年ドイツ生まれで現在ボン大学の教授。
彼は自分でも言っている。時代に消費される哲学者であると。
「この時代に哲学を生き残らせたいのなら、
時代にあった表現を見つけなければなりません」と。

彼のベストセラーのタイトルは「なぜ世界は存在しないのか」である。
ショッキングでインパクトのあるタイトル。

彼はこの番組の中で一本のサインペンを取り出し、
これは何本に見える。1本?。
キャップを取って、それとも2つ?
見るスケールによってサインペンは変化する。
量子的なスケールで見ればペンにさえ見えない。
つまり客観的な全体など存在しないというのである。

番組の中で印象的だった言葉を列挙すると
「資本主義はすべてがショーと化した経済システム」
「民主主義は情報処理の形式」
「現実は個別のものが重なり合う網のような場で
どんなに追及しても全体を見渡す神の視点は期待できない」
「全体性という考え方をやめれば全く新しい思考が生まれる」
「ペンも数学も宇宙も存在する。でも、世界と呼べる全体はない」

言葉の使い方が実に冴えていると思いません?



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sceneryのひとこと

興味深い番組だったのでメモを取りながら見ていました。
メモを取るには録画した番組は便利です。
聞き逃せば、バックして確認することができますから。

本文に書けなかったメモも紹介します。

日本は民主主義は多数決という通念があるが・・
倫理の土台がなければ多数決は無意味です。
人々の95%が賛成したからって、
ユダヤ人を殺すわけにはいかないよね。

人間の尊厳は譲れない権利だ。ドイツ憲法の第一条。
倫理による法の支配を土台に置くべきとした。
倫理の土台がなければ権力は無制限に暴走する。

物事には「絶対的な無意味」も無ければ「絶対的な意味」も無い。
それを知れば人は自由になれる。

悪には2種類ある。
ひとつはドナルドトランプのような構造を破壊する「混沌の悪」
エントロピーを増大させる悪。
もうひとつは「構造に宿る悪」あまりに完璧な秩序は悪なんだ。

科学の枠が大きくなって、この中に哲学も取り込まれた。
逆にならなくては、哲学があり、その中に科学があるという。

今年はこれが最後の配信です。
最後の文章がわたしの趣味の世界を
無理やり押し付けたような文章になって申し訳ありません。
それではみなさまいいお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いいたします。



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