*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            文章スケッチ   NO.0015
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

薄暮の露天風呂

奥道後温泉。耳障りの良い響き。まだ行ったことはなかったが
なぜかロマンにあふれる温泉のような気がした。
わたしのイメージでは道後温泉から少し離れた山手にあって、
閑静な緑に囲まれた、ひなびてはいるが小ぎれいな数件の宿があるみたいな。

膨らんだイメージと、その料金の安さに魅かれて
2泊3日の温泉旅行に家内とふたりで申し込んだ。
何しろJRのまともな往復運賃よりも安い料金設定なのである。
愛媛県がかなりの補助金を出しているとパンフレットには謳ってあった。

松山駅から市電に乗り換えて道後温泉駅に。
そこからバスに乗って15分ぐらい。
到着したホテルは「壱湯の守」山手は山手だったが、
わたしのイメージとは全く違っていた。

なにしろ交通量の激しい国道317号線のすぐ脇にあり、
古ぼけたホテルだが規模はかなり大きい。
国道をまたいだホテル内の連絡橋もあり、
国道の両側にホテルの施設がそびえている。

ホテルの入り口にあるロビーが、もうすでに5階だという説明があったので、
山の傾斜に沿うようにしてホテルは建てられているのだろう。
正直なところ多少がっかりした。

気を取り直して、夕食までの時間を利用して温泉に行く。
このホテル、国道から少し離れた場所に来ると雰囲気ががらりと変わる。
ホテルの表側と裏側とでは表情も雰囲気も全く別のホテルになる。

山の中腹にしつらえられた規模の大きな露天風呂が見事だった。
遊歩道のような木製のすのこの上を素っ裸でかなりの距離
移動するのはさすがに寒かった。

いろいろなタイプの露天風呂があったが、
とりあえず中央の岩風呂を目指す。
先客がひとりいた。慎重にそろそろと湯船に浸かる。
冷え切った体に湯が絡みつき生き返ったような気分になる。

人心地がついてから、ゆっくりと周りを見渡すと、
湯船のそばにひとかかえ以上はある大きなかやの木がすっくりと立っている。
その向こう側は深い渓谷で川のせせらぎが聞こえる。
渓谷をはさんで正面には緑豊かな深山が泰然としている。

雄大な自然の風景と、冷たい空気、あたたかいお湯。
こんな雰囲気が味わえるのが温泉旅行のだいご味なのかもしれない。
「いいお風呂ですねぇー」と思わず先客に声をかけていた。
日本人でよかったと思う。

深山の露天風呂から薄暮の貴重な短い時間
わたしは暮れなずむ空のグラデーションの変化を、
飽きることなく、暗くなるまで見上げていた。



----------------------------------------------------------------------
sceneryのひとこと

今回の旅行はラッキーとアンラッキーが目まぐるしく変化する
不思議なめぐりあわせの旅だった。

まず私たちの乗った特急列車が人身事故があったということで、
松山まであとひと駅だというのに、一つ手前の今治駅で降ろされ1時間以上待たされた。
文句のないアンラッキーだった。

だがそのために道後温泉本館への入浴というスケジュールがカットされ、
旅館のバスが予定より早く迎えに来た。
早く旅館でくつろぎたいふたりにとってはラッキーだった。

旅館は期待とは違う印象でアンラッキーだったが、
露天風呂が素晴らしくてラッキー。

夕食のバイキングが写真の紹介ほどではなくアンラッキーだったが、
あくる日に訪れた道後温泉本館の工事はほぼ完成しており、
坊ちゃん湯にも入浴できたのでラッキー。

とどめは、先ほど旅行会社から電話があり、
特急列車に遅延があったので一部の料金を返還するとのこと。
二人分で約3000円。これは超ラッキー。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@zd.ztv.ne.jp
HP 日常の風景
http://www.zd.ztv.ne.jp/scenery/

----------------------------------------------------------------------
日常の風景が本になりました。ご覧ください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/book/book.html

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www.zd.ztv.ne.jp/scenery/ からお願いします
----------------------------------------------------------------------