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            文章スケッチ   NO.0001
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かさぶたの奇跡

彦根市にも中規模のヘルスセンターがある。
三種類のサウナ風呂に露天風呂、
ジェット噴射のマッサージ風呂や炭酸風呂などもあり、
食堂や休憩施設もそれなりに充実している。

一番嬉しいのは一万冊以上の漫画本が揃っているので、
漫画好きのわたしにとってはありがたい。
Wi-Fiも自由に使える。

安売りの時に回数券を買えば、これだけの設備でありながら
わずか500円で入場することができる。
年寄りが暇つぶしに一日遊ぶにはこれほどふさわしい場所はない。

スチーム風呂の椅子に座って汗を流していた時、
右腕にあった幅1ミリ長さ10センチぐらいの細長いかさぶたが
半ばからふたつに折れ下の方が剥がれかけているのに気づいた。

このキズを負ったのも2週間ほど前のこのヘルスセンターだった。
露天風呂から上がるときに、足元が何かの拍子につるりと滑り、
尻餅をついたときに石垣に腕を打ち付けて裂傷を負ったのだ。
骨折していても不思議ではない状況だったから、まあラッキーだった。

子供時代からのわたしの悪い癖は、
かさぶたが気になって早めに無理に剥がし、また出血して、
結局、傷口が治るのが長引いてしまうというのがある。

こんなに年を重ねても、剥がれかけのかさぶたを見ると
放っておくことができず、少しずつ剥がし出したのである。
途中まではほとんど痛みもなくするすると剥がれて行った。
傷口もうまくふさがっている。

所が最後の1ミリぐらいの場所でチクッとした痛みを感じた。
これ以上続けたら出血するような予感がしたので、
これで止めておこうと、剥がしたかさぶたを爪で切ろうとしたのだが
意外にこれが強靭でどうしても切れない。

仕方がなくねじり切ろうと、縄をなうような調子で
くるくると巻いたが、うまく行かない。
引っ張ると痛くて出血するのは確実である。

とうとう諦めてしまった。
腕からぴらぴらと糸くずが生えてきたような格好になった。
それがしばらくは気になったが、そのうちに忘れてしまって
いつものようにいろんな種類の風呂を楽しんでいた。

風呂から上がって、洗面所の前で体をふいているときに、
あのかさぶたのことをふと思い出したのである。
右腕を鏡に映してみると、驚いたことに、
ビッタシと傷口をふさいだ元の状態に戻っている。

あんなヨレヨレにちぎれかけていた細いかさぶたが、
元の状態に貼りつくなんて、一体どんな身体の仕組なのだろう。
自分の体でありながら、これは奇跡に近いと感じさせられた。



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sceneryのひとこと

日常の風景の副題であった「文章スケッチ」という題をメインにして
いままで以上に気ままに、
好きなことを好きなように書いて行きたいと思います。

目標もノルマもありません。
全くの年寄りの暇つぶし、いつ止めるかもしれませんし、
逆にだらだらといつまでも続くかもしれません。

いずれにしろ新しくスタートする「文章スケッチ」
よろしくお願いいたします。


最近見たNHKの番組で
「シリーズ 人体 神秘の巨大ネットワーク」という番組がある。

その中で印象的だったのは、人体をコントロールしているのは
脳だけではなく、細胞同士が直接会話し、
細胞や臓器からも脳に指令を出しているらしいことである。

わたしのかさぶたの奇跡も、
一か所でかろうじてつながっていた細胞が
細胞同士直接会話したとしか思えない。

風呂に入っていたので、ねじれたかさぶたも
ふやけたように広がり、元の場所に貼りつけたのだろう。

折角貼りついてくれたので、そのままそっとして置いたら
2日後ぐらいにいつの間にか自然に取れていた。
傷口もきれいに治まっている。



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