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            文章スケッチ   NO.0016
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きつね記念日

「チン」と電子レンジから聞きなれた音が聞こえる。
冷凍の玉うどんが解凍されたという合図である。
7分間の待ち時間は長いようだが、あっという間に過ぎる。

待ち時間の間にいろいろと準備することがあるのだ。
鍋に700CCの水を入れて、粉末のうどんダシの素を入れて
ガスに火を付けておく。

うどんの具として電子レンジで準備しておいた半熟卵、
それに焼きブタを厚めに4枚に切っておく。
とろろ昆布もひとつかみ入れられるように用意しておく。
キザミネギは市販のあらかじめ細かくカットされているものを使う。

こうして手順を文章にするとかなり大変そうだが、
もう何十回と繰り返してきた作業なので、
台所に立ってから仕上がりまで20分はかからない。

最後の仕上げに、鍋のダシをどんぶりのうどんに入れようとして、
何かがいつもとは違う感じがした。
鍋の中には茶色く澄んだダシだけが煮立っている。

違いの原因に気が付くまでおよそ0.5秒。
いつもなら鍋の中にある肝心の刻んだ油揚げが入っていないのだ。
この0.5秒が無限の時刻に感じられるほど長かった。

瞬時にわかるべきことがすぐにわからない。
最近はこんなことが多い。焦る。落ち込む。年を取ったと実感する。

あわてて、冷凍庫からあらかじめ油抜きして刻んでおいた
冷凍の油揚げを一回分鍋の中に放り込む。
いつもの手順なら、ダシと一緒に煮立っている油揚げである。

「今日のお揚げさんおいしいね。新しいの?」
と、うどんを食べながら家内がいう。
「いや、別に」ととぼけたが、実はわたしも同じことを感じていた。

いつもより歯ごたえもいいし、油揚げが持つ
本来の風味が甦っている。
うっかり失敗したことが大成功につながった。

ノーベル賞の栄光も物理学賞や化学賞などは
そのほとんどが偶然の失敗からスタートしている。

我家もたかがきつねうどんレベルとはいえ、
うっかり、ぼんやりから新しい発見があった。
今日のこの日を「きつね記念日」と名付けよう。



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sceneryのひとこと

ふたりの昼食がきつねうどんだけということは
我が家ではよくある。
年寄り夫婦にとってはそれだで充分なのである。

あらためて振り返ってみると、
きつねうどんひとつを取り上げてみても、
わたしには試行錯誤の歴史がある。

ダシの素も最初は袋に書いてある通り、
一人前のうどんに一袋ずつ使用していた。
薄味が好きなわたしたちにはやはり少し濃い目の味になる。
やがて、ふたりで1袋にしてみた。これで充分だった。

油揚げは京揚げの割に上物を使う。上物といっても一枚100円ぐらい。
最近はまとめて3枚ぐらいを買い、沸騰したお湯につけて、
油抜きをする。油抜きした油揚げを適当に刻んで冷凍保存しておく。

これも最初はきちんとした器に入れて冷凍した。
しかし、凍り付いてブロック状になった揚げを取り出すのが大変。
時間が掛かるうえ、割れたりちぎれたりする。

そこで最近は、一回分を使い捨てのビニール袋にいれて、
保管しておく。これだと冷凍庫の場所を取らない上に、
一回分を取り出すのがとても楽になった。

このような家庭の簡単な料理でも割に奥は深いものなのである。



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