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            文章スケッチ   NO.0009
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古刹を歩く

山道をゆっくりと歩いていて、ふと思った。
京都大原の三千院を目指す坂道にすこし似ていると。

右側に清冽な小川が流れ、水が岩にちいさくぶつかる音が絶えず聞こえている。
小谷山の東の方向に位置する古寺への山道。
小谷山はもちろん浅井長政の居城があった山である。

古寺の名前は大吉寺という。
訪れる人もほとんどない田舎の山寺であるが、
昔は源頼朝の庇護を受けて僧坊が50近く連なっていた大寺であった。

「吾妻鏡」「平治物語」には平治の乱で敗れた源頼朝が
東国に逃げるときに大吉寺の天井裏にかくまわれたという記述がある。

現在は庫裏と本堂が残されているだけで、
名前も忘れ去られ、訪れる人もほとんどいない。
それでも石垣や建物跡の痕跡はかなり残っており往時をしのぶことはできる。

大吉寺を訪れたわたしたち総勢4名。
「そこを左」とわたしと並んで歩いていた友人が、
先をゆっくりと歩いている二人に声を掛けた。
この山里は彼の地元で、今日わたしたちをここに案内してくれたのである。

昨晩は彼の家にみんなで泊めてもらった。
「何にもない田舎やけど夏は涼しくていいとこですよ」
という彼の言葉に甘えて、夕方の5時ごろから宴会をはじめて、
夜の11時過ぎまで、みんな機嫌よく飲み続けて途切れることなく語った。

クーラーなどは彼の家には必要ない。
窓を開けておくだけで十分に涼しい。
友人の家に泊めてもらうのも、こんなに楽しい宴会をしたのも、
本当に久しぶりのことである。

この4名、今から25年ぐらい前に4〜5年間、
英会話を一緒に勉強してきた仲間である。

共に勉強する場を失くしてから、しばらく連絡も途絶えていたが、
定年後、あるボランティア活動をきっかけに
又、たまに一緒に飲んだりするようになった。

大吉寺の本堂をめざす先の二人は手をつないでいる。
夫婦に見えるが、ただの友人である。

彼は元盲学校の教師で目が見えない。
だから主婦である彼女が手をつないで道案内をしている。
昔からさりげなく振る舞い、ごく自然にサポートができる。
そんな彼女だった。

わたしの横を歩いている地元の彼も元高校の教師。
数年前に伴侶を亡くし、今は田舎でのひとり暮らし。
わたしはごくごく平凡な会社員だった。

みんな退職し年を重ねた4名が、
又こうして大吉寺という古刹を尋ねて一緒に歩いている。
なんか人生とは不思議な縁で結ばれているものだとしみじみと思った。



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sceneryのひとこと

帰り道、お寺の池で蛇を見た。
長さ1メートル足らずのしま蛇。
自然の蛇をこの目で見たのはわたしにとっては
随分久しぶりのことだった。

しかもそのしま蛇、口に大きな魚をくわえている。
20センチぐらいはありそうである。
まだ生きていてときどき思い出したように暴れている。

魅入られたようにそれをじっと見ているわたしに、
「こんなことは普通です。しょっちゅう見ますよ」
と、先を促された。

彦根からここまで車で約一時間。
わずかそれだけの距離なのだが、
そこは彦根とはかなり違う世界、野生の環境がまだ色濃く残っていた。



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