*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            文章スケッチ   NO.0010
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

お墓と祖先

わたしには若いころからずっと共に活動してきた文学仲間が全国にいる。
沖縄、九州から北海道に至るまで。
仲間の職場がみんなNTTだったので、
昔は電話で連絡を取り合うことが多かったが、
それでも正式には葉書や手紙という時代が長く続いた。

でも最近では、PC、スマホ、タブレット。
便利な世の中になったものである。
全員が引退してからも、メールで連絡は取りあえるし、
BBS(掲示板)を通じて文字での雑談も楽しめる。

そんなわたし達文学仲間のBBSで最近話題に上がったのが「お墓」
墓参りや墓守や墓じまいについて。
それから派生して死後に魂があるとかないとか・・
話題からしてかつての文学青年、文学少女も
互いにずいぶんと年を重ねてきたものです。

お盆にふさわしい話題ではあるので、
わたしも参加しようと内容を考えているうちに、
次々と投稿されるので何となく書く機会を失くしてしまいました。

一番大切なことは、祖先に対するすべての儀式や行為は
死者のためではなく、生きている自分たちのためになす行為である
という視点です。

お葬式、年忌法要、お墓参り、毎朝仏壇に手を合わせる行為など、
すべてが死者のためではありません。
まだこの世に残っている、生きている自分のためになのです。

有名な「千の風に乗って」の歌詞にあるように、
死者はお墓の中や仏壇の中にはいません。
この宇宙全体の命のなかに帰って行ったのです。
個の命から全体の命へ。
まったくの無になってしまった訳でもありません。

死者がすなわちわたし達の祖先が一番喜ぶことは、
お墓参りや年忌法要ではなく、実はもっと単純なことです。
それは自分自身が喜び、生き生きと充実した毎日を生きるということです。

わたしの体を作っているすべての細胞は、
両親からのDNAのプログラムによって作られています。
だからわたしは両親の命を生きているとも言えますし、
わたし自身が祖先そのものとも言えます。

わたし達はただDNAのキャリアーに過ぎないと極論する学者もいます。
祖先を敬うということは一番に自分を敬うことに直結しています。
DNAがみずみずしく生き生きと喜ぶことが祖先の喜びです。
祖先が子孫にどうしても残したいものはこのDNAだけなのです。

わたしの考えでは死者がこの世で生きている場所もあります。
わたしが自分の両親を亡くしてからもうずいぶんと時が流れました。
ですがわたしは習慣として毎朝両親のことを思い出します。

わたしの頭の片隅を借りて両親は生き続けます。
家族だけではなく両親の友人や知人の中でも生き続けています。
それは想い出とはまた違うものです。確実に生き続けるのです。
わたしが死んだ後もわたしの子供の中で、
「おじいちゃん」「おばあちゃん」として生き続けます。

わたしの子供が寿命を迎えるころに、
この世に両親のことを思い出せる人がひとりもいなくなったとき、
そのときが両親は本当にこの世での死を迎えることになるのです。
この世での第二の死と言えると思います。

だから今後も丁寧に墓守を続けて行ける人は
自分のためにそれを続ければいいし、
もうそれができなくなった人はためらうことなく墓じまいをすればいい。
それは生きている人の問題であって、
祖先にはまったく関係のない話なのです。



----------------------------------------------------------------------
sceneryのひとこと

文学仲間とのBBS「葦笛のひろば」です。
https://8236.teacup.com/scenery2/bbs

わたしの家には幸いなことにお墓がありません。
子供たちにも決してお墓は作らないようにと、
みんなにあてた遺言のような文章にもはっきりと書いておきました。

お葬式は今のところ世間の大切な慣習ですから、
それは残った家族と世間のために簡単に執り行うとして、
その後の年忌法要などは一切不要ともしたためておきました。

年忌法要に使うお金があれば、そのお金で
家族みんなでで温泉旅行にでも出かけて、
夕食の乾杯の前に、ひとことだけ
「父親の7回忌記念旅行に乾杯」とだけ言ってもらえればそれで充分。

長い長いお経にしびれを切らして
ただただ忍耐の時を過ごすより、
ずっと有意義な時間だと祖先としてのわたしは感じます。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@zd.ztv.ne.jp
HP 日常の風景
http://www.zd.ztv.ne.jp/scenery/

----------------------------------------------------------------------
日常の風景が本になりました。ご覧ください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/book/book.html

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www.zd.ztv.ne.jp/scenery/ からお願いします
----------------------------------------------------------------------