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            文章スケッチ   NO.0017
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パン屋襲撃

図書館の返却棚に村上春樹の本を見つけた。
とても薄っぺらい本で、最初童話かなと思って手に取った。
「パン屋を襲う」というタイトルがついていた。

れっきとした短編小説である。
写真集のような上質の紙が使用されていて、
イラストもいっぱい描かれている。

わたしの本棚にも並んでいる短編小説であるが、
借りることにした。
久しぶりに読み返してみようと思ったのである。

このようなあらすじである。
一文無しのふたりの若者が異常な空腹に耐えかねて、
包丁を持ってパン屋を襲うのである。
パン屋の主人は刃物で脅すまでもなく、
「そんなに腹が減っているのなら、お金はいらないから
好きなだけパンを食べればいい」と言うのである。
「恵みはいらない」と若者は断る。
「じゃ呪うというのはどうだ」呪われるのもいやだと若者は断る。
結局クラッシック音楽が好きな主人とワグナーを一緒に聴くことで妥協する。
「もしよかったら明日はタンホイザーを聴こう」
という主人のセリフで小説は終わる。

1981年の「早稲田文学」10月号に掲載された、
村上春樹の本当に初期に書かれたこの小説、
何とも言えない不思議な魅力の
春樹ワールドの輪郭がもうすでに浮かび上がっている。

素敵な物語ではあるが、このふたりの非行は悪は完結していない。
だから村上春樹はきちんとした悪を果たすことができなかった
モヤモヤを完結させるために、
結婚して落ち着いた生活を送る主人公に再びパン屋を襲わせる
「パン屋再襲撃」という短編を4年後に又書いた。

自分の人生を振り返ったときに、悪なり非行なりは、
それをその時期にきちんとこなしておくタイミングというのが
あるのではないだろうかと思う。

わたしの場合は高校時代だった。
先生に隠れて悪さもいっぱいした。

煙草を吸ったり、マージャンをしたり、
訳が分からないまま、喧嘩をする友人の立会人になって、
その迫力に肝をつぶしたこともある。
あるときはポルノ映画を友人と見に行って、
風紀の先生に見つかり、震えあがったこともあった。
まっとうな青春だった。



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sceneryのひとこと

わたしの高校は工業高校で男子生徒ばかりだった。
3年間クラス替えすることなく、
同じ仲間と3年間を過ごしたのである。

クラスのリーダーが秀才不良とでも呼ぶべきだろうか、
頭は良かったが普通の優等生のタイプでは全くなかった。
ほとんど勉強をしなかった私たちと一緒になって、
真剣に遊んでくれた。

みんなとても仲が良かったし、クラスはまとまっていた。
いじめなどの陰湿な出来事とは無縁で
生涯付き合える友人を見つけることができた。

高校卒業後、ふたりの秀才不良は超一流企業の部長になったし、
喧嘩をした友人は不動産業を自分で立ち上げ、浮き沈みはあったが、
今は全国不動産業界の組織で副会長に抜擢されている。

ポルノ映画を一緒に見ていて共に震えあがった友人は、
商売で大成功をして豪邸を建て、桜の木を家の周りにたくさん植え、
毎年春になれば彼の家でクラスの仲間と花見をするのが恒例になった。

かく言うわたしも、きちんと勉強しなかったという飢餓感を完結させるため
社会人になってから通信大学と夜間大学の二つの大学を卒業した。
大学では復習も予習もきちんとこなしたので、かなりの優等生だった。

わたし達が生きた時代は高度成長の真っただ中、
人生をやり直すことができたいい時代に生まれさせてもらったものである。
とてもラッキーだったし感謝もしている。



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