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            文章スケッチ   NO.0023
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風の露天風呂

それにしても大きな湯船である。
正四角形の湯船だが一辺が10メートル近くはある。
壁に沿って並んでいる洗い場も全部で30ぐらい。

装飾はそれほど凝ったものはあまりない。
贅沢なホテルの余裕というべきかシンプルでさっぱりとした印象である。

洗い場に置いてある、シャンプー、リンス、ボディソープの色が
それぞれの場所、同色で統一されいる。
緑、緋色、黒色の3つのグループが整然と置かれ鏡に映えている。
まるで三色旗のようなアクセントを醸し悪くないセンスである。

朝の風呂場には先客が5、6人いた。
だが透明なガラスの向こうに見える露天風呂には誰の姿もない。
それもそのはずである。
北陸全体に注意報が発令されるほどの強風が吹いているのだ。

わたしは温泉の露天風呂に浸かっているときの
雨、雪、風などはどちらかと言えば大歓迎なのである。
あたたかい温泉の浸かりながらの自然は、
多少荒々しい方がその落差が面白くて雅趣になる。

わたしは敢然としてひとり外に飛び出た。
岩風呂の向こうにある庭園のブナの木が、
まるで越後獅子が狂乱するように右に左に揺れている。

あちらこちらから吹き飛んできた落ち葉が湯船の半分を覆っていた。
紅葉の絨毯を切り裂いて湯船にからだを沈める。
温泉に浮かぶ紅葉の観賞。贅沢ないい気分である。

手に取って一枚一枚の葉っぱを眺めてみると、
美しく完全な葉っぱというのは一枚もない。
虫食いのモミジ。葉の先がひどく傷ついている広葉。
半分茶色く枯れている名無しの葉っぱ。

でもそれぞれに何がしかの色を残し、ユニークな模様も造っている。
ひとつとして同じものはない。
しみじみと枯葉は人の人生そのものだと思える。

強風が少し凪いできた。
ブナの木の間から、朝の白い月が青空に浮かんでいる。
強風のせいだろうかいつもより月がくっくりと見える。
月の模様までがよく見通せるのである。

白い月の模様は空の色と同じ色をしていた。
空の色が月に滲み出てきたように感じられる。
そんな白い月が空の一角にぴったしと嵌っていた。



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sceneryのひとこと

今回の旅の宿は山代温泉のホテル加賀百万石でした。
https://www.kaga-hyakumangoku.jp/

いつもなら事前にホテルのホームページなどで調べて行くのですが
今回は、前に一度泊った宿という思い込みがあって、
まったくノーチェックで現場に到着しました。

ホテルを見て驚きました。
近年泊ったことがないような規模の大きな贅沢なホテルでした。
部屋も3部屋もありましたが、1部屋はわたし達には全く不要の部屋でした。

それにしても昔に比べて旅行の代金は圧倒的に安くなりました。
今回参加したのが以下の旅です。
https://www.hankyu-travel.com/tour/detail_d.php?p_hei=30&p_course_id=5U23203

最近は近場の温泉で2連泊というケースが多いのですが、
2連泊でもJRの運賃込で2万円からのコースがあります。
普通で3万円ぐらい。今回はすこし張り込みもう5千円出しました。

5千円の違いが、こんなにちがうのかとも感じました。
千坪を超えるような日本庭園。
館内には大浴場が3つもあり、館内を500メートルぐらいは歩きます。

従業員の訓練も行き届いていて気持ちのよい挨拶をしてくれます。
掃除も隅々まで目配りされていて清潔。
廊下などが間接照明で感じがよく、
玄関や受付のホールが吹き抜けで超広々としている。
朝になれば部屋に朝刊が配達されていました。

安くなったとはいえこうして家内と何度も旅に出かけられるのは、
お金と暇の問題だけではないのですよね。きっと。
ふたりの健康状態はもちろん、家の環境、状況、
家族との関係などなど。
わたし達も今後どうなるかはわかりませんが今はただただ感謝の日々です。



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発行者 scenery
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HP 日常の風景
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