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            文章スケッチ   NO.0034
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名前忘れの改善法

毎月曜日の午後から彦根市内にあるかなり規模の大きな
スーパー銭湯でゆっくりとくつろぐのが最近の習慣になった。
コロナの影響で入浴客もそれほど多くはないのでかなり快適。

お気に入りのジェットバスに仰向けに横たわり、
強く噴出するジェット噴流で足裏をマッサージしていると、
ふと目の前の炭酸風呂に浸かっている一人の老人の姿が目に入った。

まず本人ではないとは思うが、
昔一緒に働いていた職場の同僚にそっくりなのである。
えーと、何という名前だったかな?
最近は一度名前でつまずくとまずほとんどが思い出せない。

ためしに、当時一緒だった他の同僚の顔を頭に思い浮かべてみる。
次々と顔は思い出せるのに、名前は半分も出て来ない。
おもわず全ての老人が恐れているアレの初期症状かとぎょっとして、
胸がドキドキするほどに動揺した。

その夜、インターネットで名前を忘れるという現象について、
その原因やら対処法などを徹底的に調べてみた。

結論から言えば、正常である。ごく普通の当たり前の現象なのである。
年のせいだと割り切れて、あまり気にならない楽天的な性格の人は、
そのまま放置しておいてなんら差し支えない。

むしろ、思い出せない名前を無理に思い出そうとして、
脳に無用なストレスをかけるのは逆効果。
住所録や名簿などで調べて早くすっきりとさせた方がいい。

今や常識になりつつある脳のしくみをあらためて書くのだが、
わたしたちの脳の中で、名前のような記号を覚える場所と
映像を覚える場所とは完全に違う場所で、別々に記憶整理される。

映像の記憶はわたしたちの祖先がまだ魚か両生類だった頃の
きわめて原始的な脳の部位、本能に近い場所にある。
だから大昔に一瞬だけ見た映像でもすぐに思い出すことができたりする。

だが名前は言葉と同じようなただの記号にすぎない。
後からできた大脳皮質に記憶される。だから使わないと当然忘れる。
学生時代にあれほど数多く覚えた英単語をすっかり忘れるのと同じである。

年寄りは記憶力が悪いというのは完全な思い込みで、
脳にインプットする力、記憶力はほとんど若者と変わらない。
年寄りは蓄積した記憶を引き出す力、
すなわちアウトプットする力が弱くなっているだけなのだ。

名前の記憶をアウトプットする力を強くするには、
アウトプットの回数を増やす以外に手はない。
だだひたすらに名前を繰り返してアウトプットする機会を増やす。
これが人の名前を思い出せない症候群への唯一の対処法になる。

その具体的な方法はユーチューブから見つけた。
テレビの連続ドラマ、大河ドラマでもいいし、朝ドラなら理想的。
テレビで観る連続ドラマの俳優の名前を主人公から主な脇役まで、
フルネームで覚えるという方法である。

ドラマの出演者のキャスティングを調べ、その資料を手元に置いておき、
俳優がテレビに映されるたびにフルネームでその名前を唱える。
最初は主人公の名前ぐらいしか出て来ないが、
毎日繰り返しているとそのうち少しずつ口に出せる俳優の名前が増えてくる。

これは趣味で収集する何かの物が増えて行くのに似た快感がある。
こんな訓練は習慣的に毎日続けなければ意味がない。
楽しくなければ毎日は続かない。
楽しい連続ドラマを見ながら名前忘れが防止できる。
一石二鳥のいい方法を見つけたと、わたしはとても気に入っている。



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sceneryのひとこと

俳優の名前をフルネームで覚えるという本文に書いた方法。
始めてもう2週間ぐらいになる。
思い出せたり、また忘れたりとバラツキはあるが、
わたしの結論をいえば、相対的にかなりの効果がある。

俳優の名前は訓練している最中なので当然だが、
それ以外の昔の同僚や知人の名前を思い出せる確率も
かなり高くなったように感じられる。

最初の数日は連続ドラマが終わると、
頭全体がウワーンとやや逆上せるような感じで、
脳の血流が隅々にまで巡るのがはっきりとわかるほどだった。

名前をアウトプットする回路を使用する機会が
いかに少なくなっていたかの証拠のように思えた。

仕事をしていたころは、意識的か無意識かは別にして、
日々名前をアウトプットする機会に恵まれていたのは確かである。
老人になったから衰えたのではなく、
ただ単にアウトプットする機会が減っただけだと思う。

詳しく調べた「名前が思い出せない症候群」を改善する方法で
なるほどと納得できたもうひとつの大切な情報がある。

それは自分の脳を自分でけなさない、
脳の限界を自分でつくらないことである。
たったひとつでも新しい名前を覚えることができたら、
「すごいね」「まだまだやれるね」と徹底的に褒めることである。

いわば自分で自分を褒めるということになるわけだが、
脳は褒められると本当に喜ぶ。それは確かである。
褒めて、おだてて、ちいさな成功体験を積み重ね、自信をつける。
自分の脳をだまくらかすことはそれほど難しいことではない。

決して「もう年だから」と諦めたり、
能力の限界を自分自身で作ったりしないことだと思う。

今現在、キャスティングの資料を手元に置いて連続ドラマ4本を
同時に進行させている。
もちろん毎日忘れる。完全に覚えられたと思えた名前でも
次の日にはまた忘れたりする。

でも少しずつ、すくい上げられる名前が確実に増えているのも確か。
年末までには少なくとも新しく100人の名前を覚えるのが目標。



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