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　　　　　　　　　　　　文章スケッチ　　　NO.0032
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南極の氷

宴会に集まった高校時代の同級生は６名。
政府が求めている人数よりも１名はみ出しているが、
総理大臣の手本もあるし、それほど責められることでもない。

地元の宿泊施設を使ってのミニ同級会兼忘年会を
計画してくれた幹事が、気を利かしてわたしたちだけが利用する
独立した宴会部屋を確保しておいてくれた。

「もう５０年の付き合いになるね」
集まった仲間の懐かしい顔を見て誰かがつぶやくと
「何を言うてるんや、もうほぼ６０年の付き合いやで」
とすぐに突っ込みが入った。

６０年近く付き合いのある仲間が集まるのに
静かに会食をという原理原則は、はなから守れないし守る気もない。

京都から参加してくれた仲間が、
宴会場に白い発泡スチロール容器を持ち込んできた。
カニでも入っているのかと思ったが、中身は南極の氷だという。

「ちょっとツテがあって、めずらしいものやさかい持ってきた」
と、彼は言った。中を見るとひとつの大きな氷のブロックである。
小さく割ってオンザロックの氷として利用する以外に
この氷の使い道はない。

ウィスキーも一瓶用意されていたが、
これはあからさまな持ち込みになる。かなり気が引けた。
が、ラッキーなことにわたしたちの世話をしてくれる従業員が
たまたま仲間が所属するスポーツジムの知り合いだった。

氷を小さく割る仕事を引き受けてくれた上、
ウィスキーの持ち込みまで黙認してくれた。
京都の仲間がチップを渡そうとしたがどうしても受け取らなかった。
とても親切ないい人である。

南極の氷をオンザロックにして飲むと、
さわやかないい音がすると聞いたことがある。
なるほど、氷にはちいさな気泡が無数に閉じ込められている。

琥珀色をしたオンザロックに耳を近づけると、
ぴちぴちぱちぱちと一万年以上も前に南極で閉じ込められた
古代の大気が現代に解放される音が絶えず聞こえる。

この年になって初めての得難い体験。
南極の氷は一万年。わたしたちの付き合いは６０年。
その悠久の時間と、酒と会話と青春の思い出に
コロナのこともすっかり忘れられた楽しいひとときでした。



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ｓｃｅｎｅｒｙのひとこと

わたしたちは昭和２０年生まれ。
終戦の年である。その年だけは極端に生徒の
数が少なかった。
それから２、３年して戦後のベビーブームになるのである。

生徒数が少ないということは、他の学年の比べて
激しく競争したという記憶は皆無である。
みんなおっとりのんびりとしていたような気がする。

コロナ前は中学時代の同窓会も隔月で５年以上も開いていたし、
高校時代の同級会もわたしがずっと幹事で、
５年おきに必ず開催していた。

昭和２０年生まれの生徒どうし仲がいいのは、
多分競争があまりなかったということが関係しているような気もする。

これが今年最後の配信です。みなさんいいお年をお迎えください。
来年こそワクチンが効果を発揮して、
コロナ騒ぎが収まるといいですね。



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