*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            文章スケッチ   NO.0022
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

涅槃の島

いつも見慣れている彦根から見る琵琶湖は、
だだっ広くて茫漠とした静かな海という印象である。
対岸の景色も見通せるには見通せるのだが、
いつも靄がかかったように空に溶け込んでいてはっきりしない日が多い。

その点、近江八幡の国民休暇村の東館から見る琵琶湖はがらりと印象が変わる。
真正面のごく近くに琵琶湖で一番大きな沖島がどんと鎮座していて、
両側にある半島が島に向かって手を伸ばしている。

沖島の向こう側の比良山系もすぐ近くにあるようにクリアーに見える。
とても複雑な地形で、まるで風光明媚なリアス式海岸のようである。
ここは琵琶湖でもとびっきり景色のいい場所だと思う。

昨日の夜は中学時代の同窓生15名がこの東館に宿泊した。
今年だけでもう2度目の一泊同窓会である。
みんなもう十分に年寄りなのだが、同窓会の旅行となると
初めて東京へ行った修学旅行のようなにぎやかな雰囲気をまだ醸しだす。

あくる日は目の前の島、沖島への観光が計画されていた。
船一艘を借り切っての観光は素晴らしい天気に恵まれた。
波はおだやか、快適に疾走する船。船内にいても感じるここちよい風。
きらめく琵琶湖。気の合った仲間たち。

沖島は漁師さんたちの島である。
かつては800人ぐらいの住民が居住していたが、今は300人足らず。
生活の島だから観光客はほとんどいない。
その日はわたしたち15名が観光客のすべてだった。

わたしたちに同行してくれたボランティアガイドさんが、
丁寧に島の隅々まで案内してくれた。
島の歴史は古く、奈良時代に藤原不比等が建立した神社も現存している。
この島のことを詠んだ紫式部や柿本人麻呂の和歌も残っている。

わたしが一番印象に残ったボランティアさんの説明は、
最初にこの島に住み着いた7人の祖先のことが記録にあるということだった。
今でも島人の7割がこの祖先と同じ苗字の子孫だそうである。
平安時代に平家に敗れた源氏の落ち武者であったらしい。

観光が終わった後、沖島港の正面にある漁業組合のお土産屋台で、
小鮎のあめだきとエビ豆をお土産に買った。
何しろ観光客はわたしたち15名だけである。
わたしたちが買わなければ他に買う人は誰もいない。

港を離れて帰路に向かったわたしたちの船の船長が、
わざわざ遠回りして、あるポイントに連れて行ってくれた。
「ここから後ろの沖島を見てください」と彼が言う。
「仏さまが寝ている姿に見えませんか?この姿が見えるのはこの場所だけです」

わたしは「なるほどね」と思わず声が自然に出た。
頭があって首があって体を静かに湖面に横たえている。
手を組んでいるようにも見える。

静かな湖面にゆったりとした佇まいの自然の涅槃仏。
この風景を見ているだけで何となく気持ちが和む。
日本らしい素敵な涅槃仏である。これからは沖島と耳にするたびに、
今日目にしたこの素晴らしい涅槃仏が頭に浮かぶことだろう。



----------------------------------------------------------------------
sceneryのひとこと

沖島が涅槃仏だと感じられる写真のURLです。
https://sadahachi.com/memo/doc20131006-0000.html

沖島は前から一度は訪れたいと思っていた場所である。
琵琶湖には3つの島がある。
竹生島、多景島、そして沖島である。

一番観光地化されているのが竹生島。
今まで竹生島には4、5回訪れたことがあるが、
他の2島に上陸する機会は長い間なかった。

3年前にやっと彦根市の島である多景島に、
そして今回最後に残った沖島に上陸した。

わたしの感じでは滋賀県民であっても3島すべてに上陸した県民は、
1パーセントにも満たないような気がする。
この年になってやっと琵琶湖をいただく滋賀県民としての
義務が果たせたような気がする。嬉しい。

3年前に訪れた多景島の印象も日常の風景に書いていました。
「多景島に行く」
http://www.zd.ztv.ne.jp/scenery/sample/16-1/take.html



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@zd.ztv.ne.jp
HP 日常の風景
http://www.zd.ztv.ne.jp/scenery/

----------------------------------------------------------------------
日常の風景が本になりました。ご覧ください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/book/book.html

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www.zd.ztv.ne.jp/scenery/ からお願いします
----------------------------------------------------------------------