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            文章スケッチ   NO.0031
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錯覚の富士山

パンフレットには「富士山の麓で暮らす6日間」とうたっていた。
年寄りグループのツアーらしく、初日にホテルに入ったは
午後の2時過ぎで時間はまだたっぷりとある。

GoToトラベルを利用するこのツアーに申し込んだときは、
まだ全国どこへでもフリーに行ける期間だった。
それからみるみるコロナの状況は悪化の一途をたどっていた。

滋賀県から伊豆半島のある静岡県への旅。
幸い両県とも他県と比較しての話だが数字はそれほど悪くない。
経済活動も大切だという大儀名分を御旗に、
妻とふたりそのままツアーに参加することにした。

ラッキーなことに初日は上々の天気である。
ホテルの部屋からも富士山はくっきりと見えている。
浴衣に着替え、早速6階にある温泉に向かう。

何十キロも離れたところにある富士山だが、
やはり富士山は富士山である。
露天風呂から美しい稜線を描く堂々とした富士の山を楽しむ。

部屋に戻って窓から富士山の写真を撮り、
LINEで家族や友人にその写真を送った。
ある友人から「富士山ずいぶん遠くに見えますが、
どこの温泉ですか?」と返信がきた。

改めて写真を見直してみるとなるほどちっぽけな富士山である。
露天風呂から見える富士山と比較すると
100分の1ぐらいになった印象である。

旅の間は時間はたっぷりとあるので、この現象をずっと考えていた。
そして発見したのである。原因が解明できた。

わたしは常に富士山をフレームの中に入れて見ている。
部屋からは窓枠越しに。内湯にも大きな窓があり、
無意識のうちに身体を移動させて
枠の中央に富士山が来るようにして見ている。

露天風呂でも同じである。
簡単な鉄の柵があり、風呂に浸かりながら
鉄枠の真ん中に富士山を配置して見ていた。

つまり目の前の山は本物の富士山であるのに、
いつも絵葉書を見るようにして眺めていたのである。
絵葉書の富士山なら誰も小さいとは決して思わない。

フレームの中の富士山。
大きく見えるのは当たり前のことだと思うが、
この年になって初めて発見した現象のように思えて
ちょっとうれしかった。



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sceneryのひとこと

GoToトラベルだが今回が2回目の利用である。
最初のときと同じように旅行費用の35パーセントは、
政府が補助してくれる。

それに加えて今回の旅行には地域共通クーポン券が
ついていた。旅行費用の15パーセントだという。
当日までクーポン券についてはほとんど意識をしていなかった。

ところが添乗員からクーポン券を手渡されたとき、
すこし動揺した、その分厚さにである。
妻とふたりで千円のクーポン券が40枚。4万円分である。

静岡県だけで使うことができ、有効期限は旅行期間中のみ。
いつもの旅行ならみやげものはほとんど買うことがない。
旅行の最終日にちょっとしたお菓子を隣に買うぐらいだった。

今回の旅はお土産への価値観がまったく逆転したのである。
クーポンにおつりは出ないので、850円とか表示してあると、
1000円ならいいのにと思ったりもした。

贅沢に短期間に慣れない大金を消費するのは、
かなり疲れる仕事でストレスにもなる。
反面、得難いいい体験をさせてもらったとも思っている。

お土産がかさばり、重くなったので宅急便を利用して自宅に送った。



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