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            文章スケッチ   NO.0039
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友が消えた

高校時代の同級生からコーラスのチケットをもらった。
彼はもう50年以上も市民コーラスのメンバーで、
ほぼ2年ぶりに発表会のステージが踏めると喜んでいた。

二人分のチケットをもらっていたので、
LINEで友人に一緒に行きませんかと声を掛けた。
みんな同級生である。
今回が初めてではなく今までに何回か一緒に出かけたこともある。

でもいつもなら必ずその日の内に何らかの返事があるはずの
彼のLINEが既読にさえならない。
どこかに行って留守にしているのだろうと、
正直な所、最初はほとんど気にならなかった。

彼は早くに妻を亡くし、子供はふたりいるが、
息子は東京、娘は名古屋と地元の彦根からは遠く離れていて、
何となくひとり暮らし、という世間にはよくある話。

彼の飲み友達であるわたしからすれば、
所帯持ちのわたしの都合に合せてくれる、
いつでもどこでも気楽に飲みに誘える貴重な友人だった。

ところが3日経過しても彼のLINEが既読にならない。
これは何かおかしいと急に不安になり、彼の携帯に直接電話してみた。
電源が入っていないというメッセージ。固定電話にもつながらない。

あわてて彼のまわりの同級生たちにこの状況を説明して
「何か心当たりがないか」と問い合わせてみた。
誰も何も知らない。

たまたま彦根に仕事に来ていたY君という同級生がいて
「これから彼の家を直接訪ねてみる」と自転車で走ってくれた。
そして近所の人たちから情報を集めてくれた。

一週間ほど前に急に舌がもつれるような感じになり、
これはおかしいと自覚した彼が自分自身で救急車を呼んで、
そのまま入院したのだという。

Y君はそのまま自転車でかなり遠くの病院まで駆け付けてくれた。
だがコロナの関係で面会はおろか、
彼の様子がわかるような手掛かりは全く教えてはもらえず、
判明したことは、彼は入院しているという事実だけだった。

わたしたち高校の同級生は60年経過してもかなり親しい。
年に2、3回は定期的な飲み会を開いたり、
泊りがけの忘年会をしたりしている。

とにかく彼が入院したという事実だけでもみんなに知らせておこうと、
仲間にメールをした。
メールを受け取った京都にいる同級生があちこちに直接電話をかけて、
入院している彼の亡くなった奥さんの妹さんに
コンタクトを取ることができたのである。

とりあえずそれほど深刻な病状でもなく
普通に入院しているということが確認できた。

この物語にはまだ後日談があって、
自転車で病院にまで駆け付けてくれたY君が、もう一度彼の家を訪ね、
郵便ポストに「みんな心配しているから連絡して欲しい」との
メモを連絡先の携帯番号を書いて入れておいた。

間もなく彼の娘さんから電話がかかってきて、
最近の本当の様子が判明した。
みんな脳梗塞だと思っていたが実際は軽い脳出血だったということ。
まだすこし話難いが、それでもいっぱい話はしているらしい。
リハビリが始まれば転院しなくてはならないことなど。

とにかく彼の様子が何とか確認できてよかった安心した。



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sceneryのひとこと

今回の結果を見て、前からわたしが考えていた大切なことが
再度確認できたような気がする。

まず最初に目的や目標が明確であること。
ひとりで出来ることはたかが知れていると自覚すること。

そこに同じ目的を共有している小さなネットワークがあり、
それぞれが無理をせずに自分のできる範囲のことをすれば
かなり大きなパワーになること。

長くなるので本文には書けなかったが、
入院した彼と、京都の同級生とは小学校時代からの幼馴染で、
彼がその地区の友人に依頼して、奥さんの妹さんの家を
直接訪問までしてくれたらしい。

地域のボランティア活動なんかもきっと同じだと思う。
わたしも定年退職後10年間宅老所で
ボランティア活動をした経験があるからよくわかる。

最初に参加した時はかなり大きなグループだった。
宅老所を利用する老人の数もかなり多かったし、
ボランティアの人数もかなりいた。

大きな組織は組織を維持するために余分な時間やお金がかかる。
会議とか新聞の発行とかスタッフの時間調整など・・
お金をもらっていないのだから、ボランティアスタッフは
どちらかというと我儘である。

ごく自然に気の合う仲間同士が集まり、
派閥のようなものができる。
結局最初に参加した組織は3つのグループに分かれて解散した。

解散後しばらくして、4、5人の元メンバーから誘われて
自宅で宅老所を開くという活動に参加することになった。
この活動がほぼ10年間続いたのだが、
ユーザーもスタッフも家族みたいになり、
かなり理想的なボランティア活動ができたと思う。

結局ボランティア活動のようなものは、
善意の小さなネットワークが数多くあるというのが理想なんだと思う。



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