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            文章スケッチ   NO.0041
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花壇の妖精

ずいぶん昔の話になるが、テレビのコマーシャルで、
「わたしこと掃除嫌いの綺麗好き」と言って
若い女性が登場する映像があった。

わたしは何となくこのキャッチコピーが気に入っていた。
そのコピーをオマージュすると、
「わたしこと園芸嫌いのお花好き」ということになる。

我家の玄関のすぐ前には1.7m×2.5mぐらいの花壇がある。
一番目立つ場所にあるので、
まさか雑草だけを生やしておくわけにもゆかない。

最低限の労力で何とか形だけをそれらしく整えよう。
園芸嫌いのわたしが取った作戦である。

花は園芸店から購入してくるが、花であればどんな花でもよい。
ただし一鉢100円以下の花に限る。
肥料とか農薬とかそんな余分な費用も一切お断り。
水をやるのは朝の一回だけ。
目についた雑草だけは小さいうちに摘む。
後は何とか野生の花のようにたくましく自力で育って欲しい。

そんなポリシーで毎年花を花壇に置いてきた。
そう、置くという日本語がふさわしい。
息子に直接言われたこともある。
「おやじのはガーディニングではなくプッティングやな」と。

そんな厳しい条件でも花は毎年勝手にたくましく大きく咲いてくれる。
特に今年は陽当たりが良過ぎて、三列に植えた十五の株が
花壇のレンガの枠を超え、密集して広がり
花花花で下の土がまったく見えない。

最前列に植えた五本の日日草はまるでつつじの花のようである。
次の五本は黄色い花。ひまわりをそのまま小菊ぐらいの大きさにした感じ。
花にカタカナの名前は確かにあったが、花の名前を覚える気があまりない。
それが真ん中で一番大きく森のように育った。
無数の黄色の花弁は夏の色にふさわしくずっしりとした存在感がある。

黄色の花に隠れがちだが、その後ろは淡い紫色の小花である。
小さな小花をいっぱい咲かせている。
よく見ると一つひとつの花はアザミの花に似ている。

園芸嫌いのわたしだが、なぜか朝の水やりの時間だけは楽しい。
リールのホースを長く伸ばし、花壇の前でレバーを握ると、
シャワーになった水が勢いよく噴霧される。

空から陽がさしていればシャワーの先には必ず虹が現れる。
水が散布されると花の裏にでも隠れていたのだろうか、
小さなシジミ蝶が三匹ほど右往左往して花壇の上をせわしく飛ぶ。
まるで眠りから目覚めた妖精たちが舞っているかのように。

花々はたちまち水にしっとりと濡れてその輝きを増す。
虹がかかり、妖精が舞う。
我家の花壇が小さなメルヘンの世界へと変化すると
気分も晴れやかである。

水をやりながらだと、たまたま道を歩いている見知らぬ人にでも
「おはようございます」とか「今日も暑いですね」と
素直で自然な挨拶ができるのも虹や妖精の魔法なのかも知れない。



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sceneryのひとこと

肥料はお断りとは書いたが、有料の肥料のことで
まったく何もやっていないわけではない。

我家には家庭用の生ごみ処理機がある。
生ごみを処理機に入れて数時間すると水分が完全蒸発し、
炭のようになった生ごみが残る。

このカラカラに乾いた生ごみを大きなプラ容器にためて置き、
冬の間に花壇の土と混ぜて置く。
こうして3ヶ月ほど寝かせておくと普通の土に還る。
多分これが花がよく育つ秘訣だと思っている。

我家の花壇を掘るとやたらミミズが多い。
気持ちが悪くなるほどにミミズが住み着いているのである。

昔何かで読んだことがある。
ミミズは土を自然に耕してくれる上、
ミミズのフンは植物の良い栄養になると。

意識してミミズを飼っている訳ではないのだが、
ひょっとすれば園芸嫌いのわたしの代わりに
せっせと働いていてくれている
頼もしい相棒なのかもしれない。



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