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            文章スケッチ   NO.0046
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直木賞の二冊

直木賞の受賞作品を立て続けに二冊読んだ。
垣根涼介「極楽征夷大将軍」と
永井紗耶子「木挽町のあだ討ち」である。

最近は本を購入することはほとんどなくて、
もっぱら彦根市立図書館を利用している。
芥川賞と直木賞の受賞作品が決まったというニュースを知ると、
忘れないうちにすぐに図書館に予約を入れる。

それでも二十人〜三十人待ちになっていて、忘れたような時分になって
図書館から「予約された作品がご用意できました」と電話がある。
上記の二冊は同時受賞の直木賞なので、
二冊とも同じ時期に順番が回ってきたということは、
きっとわたしと同じような行為をする人が多数いるのだろう。

年のせいか最近の芥川賞はその斬新な文体にどうしてもなじめず、
内容もよく理解できないことがある。
時代から取り残されつつあるなぁ、と淋しく実感させられる作品も多い。
でもさすがに直木賞の小説はどの作品もおもしろい。

まず、垣根涼介「極楽征夷大将軍」その本の分厚さにたじろいた。
そして本を開けてさらに驚ろかされた。
近年にはめずらしい上下の二段組みなのである。
平易な段組みなしのレイアウトに直せば三冊分ぐらいの分量にはなりそう。
内容を読む前にその本の物理的な質感に圧倒された。

室町幕府が成立する過程を足利尊氏を中心にして、
尊氏の弟と側近の目から見た歴史が丁寧に重厚に書かれている。
読み始めてすぐに気づかされた。
わたしは室町幕府のことはほとんど何も知らないのだと。

源頼朝や義経が活躍した鎌倉幕府のことは大体の流れはわかる。
室町を経て、戦国時代から織田信長、秀吉、家康と連なってゆくのも
なじみのある歴史である。

ところがなぜか室町時代のことはブラックホールのように欠落している。
足利尊氏、後醍醐天皇、楠木正成、新田義貞などの名前は知っている。
でも彼らの関係もどういう行動をしたのかもよく知らない。

この本を読んでその理由がよくわかった。
複雑なのである。一言では言い表せないのである。
敵になったり味方になったり、裏切ったり裏切られたり、
勝った戦もあれば、負け戦も数知れず。

だから室町がわたしのなかから欠落していたのである。
根気と忍耐力も必要だったが、
基本的には愚直なほどに力作で最後まで読み続けられた。
苦手だった室町に取り組むことができたこの本に感謝している。

永井紗耶子「木挽町のあだ討ち」は間違いなく、
近年の直木賞のなかでも最高傑作のひとつに該当する作品。
時代小説になじみのない読者にもぜひ読んでほしい小説。

きらりと光る才能が随所に感じられる華のある文体。
時代劇でありながら現代のわたしたちにも通じる普遍性のある
力強いフレーズの数々。感心してばかりだった。

父親の仇討に至る経過に、かなりの無理をしてこしらえたという
欠点もあったが、そんな欠点がほとんど気にならないほどの傑作。
上質の時代劇ミステリー。お勧めです。
本が好きな人なら必ず読んでよかったと思える作品です。



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sceneryのひとこと

小学生時代から図書館はよく利用していた。
今は公民館になっているが、市場の近くにあった昔の図書館。
とても古い建築物で二階に本がずらりと並んでいた。

らせん状の階段を上るとギシギシと音がした。
かすかに油臭いような図書館独特のにおいも感じられた。

昔は今とは全然違っていて、
お上が下々の庶民に本をタダで貸し与えるという
横柄な態度の職員が多かったように記憶している。

返却が一日遅れただけでも、バツとして、
しばらくの間貸し出し停止処分になった。
貸出カードにいちいち鉛筆で必要な事項を書かなければならなかった。
めんどくさかった。

その点、現在の図書館は天国のようなものである。
無料なのに借り出す私たちの方が完全なお客様扱いで
図書館司書の方から「ありがとうございます」と挨拶をしてくれる。
図書館に限れば、いい時代になったものである。



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