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            文章スケッチ   NO.0045
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将棋のはなし

これは最近のわたしの将棋の話である。
将棋に興味のない人には多分チンプンカンプンのお話。
これ以上は読む必要はありません。お許しください。

木曜日になじみの飲み屋で飲んで食べて話すのが
後期高齢者であるわたしの楽しみのひとつである。
そしてその後、わいわい言いながら将棋を指すのも楽しみだった。
ところがわたしの将棋の師匠ともいえる好敵手が突然亡くなって早や3年になる。

なじみの飲み屋での楽しみがひとつ減ったままだった。
でもラッキーなことに最近また相手が見つかったのである。
わたしよりは大分年下だが強敵である。
このところわたしの木曜日に合せて、ほぼ毎回顔を見せてくれる。

将棋の盤面はわたしの玉が右隅に構築された美濃城の堅陣に入って、
美しくどっしりと鎮座している。
それに対して相手はまるで戦国時代の土塁だけでできた
戦線の長い野城のようで玉のまわりもスキだらけに見える。

このような戦闘配置から戦線の火ぶたを切れば、
圧倒的にわたしが有利なはずだし、将棋の本にもそう書いてある。
だが終わってみればほとんどわたしが負けている。

相手の王様は単騎で逃げ回っていて、
わたしの王様はまだ美濃城のなかで悠然としているのに
わたしの武器や兵隊がほとんど全滅しているのである。

相手の王様はたったひとりだが、
武器や兵隊の物量がたっぷりと備蓄されていて
この局面から時間をかけて反撃されれば手も足もでない。
将棋の専門用語ではこのような勝負を「差し切り」という。

いつも同じようなパターンでわたしは負かされている。

実力はあまり変わらない、でも相手がすこしだけ強いかなぐらいに考えていたが、
そうではないことがはっきりとする出来事があった。

ある日その店で昔将棋を教えてもらったことのあるわたしの知人に偶然再会した。
彼の棋力はアマチュアの5段は下らないという評判だった。
そして彼にわたしたちのいつもの将棋を見てもらった。

局後のそのアマチュア5段の正直な感想は、
「地力が違いますね、相手の駒は玉を囲わない代わりに
バランスよく配置されていて隙がありません」だった。
そして、その感想を受け取ったわたしの感想は「あっ、やっぱし」
と心から納得した。

将棋を指している当人同士は自分たちの実力がよくわかっていない。
特に負けたものは、さっぱりわからない。
今日も単純なミスで負けたと信じているし、思い当たる局面はいっぱいある。

でも明らかに実力に差があることが客観的に指摘された。
今まで4回か5回ぐらい勝負して1回勝てたのは、
わたしの大健闘だったのである。

そのように納得させられると気分も随分と気楽になった。
相手は圧倒的に受けの力が強い。
定跡を指さないのは定跡を知らないのではなく、
危うそうに見える局面を受けきる自信を持っているからである。

客観的にそうとわかれば来年からの勝負は戦い方が変わる。
変えなければならない。
でもわたしには野武士のような力戦の戦いはできない。

定跡どおりに玉は矢倉城や美濃城に入場させる。
スキがありそうだからと家来をむやみに突撃させないようにしなくては。
来年からの勝負が楽しみである。
せめて2回に1回ぐらいは勝てるようになりたいものである。



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sceneryのひとこと

実は、この日常の風景を久しぶりに発行しようと思ったのは、
来年の年賀状の文面を考えていた時だった。

わたしの年賀状はもう30年ぐらい前からスタイルが決まっていて、
葉書の上半分は短い随筆を書き、
下半分は近況を文章で伝えるというもの。

中央に「謹賀新年」という挨拶と、その年の年号が
まるで添え物のように書いてある、風変わりなものである。
ぱっと見れば、年賀状の紙面が活字ばかりで埋められている。

そして、今年の近況の原稿を書き始めた。
年金生活者の後期高齢者にもうそれほど変わったことは起きない。
書くことがない。

仕方がないので、木曜日のなじみの店のことを書こうとして
書き始めたのだが、書き始めるととても葉書の半分では収まらなくなった。
それだったらいっそのこと日常に風景として、
久しぶりの作品に仕上げてしまおうと決心して、
上記の作品ができました。



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発行者 scenery
north@zd.ztv.ne.jp
HP 日常の風景
http://www.zd.ztv.ne.jp/scenery/

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ユーチューブで「おっさん英語」始めました。
https://www.youtube.com/user/scenery1003

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日常の風景が本になりました。ご覧ください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/book/book.html

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『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/
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