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            文章スケッチ   NO.0042
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忘れた忘年会

変化に乏しい年金生活者のわたしにとって、
木曜日はハイライトが少し当たる貴重な曜日である。
ほぼ決まった時間になじみの飲み屋で、
なじみの客と飲んで食べて、たまに将棋を指す。

以前、店で酔っぱらって自転車で家に帰る途中に
ひっくり返って骨折し入院するという羽目になって以来、
少し距離はあるものの店に行くのは徒歩でということに決めた。

いつもの時間に店に向かったのだが、
遠くから店を眺めると何かおかしい。いつもと様子が違う。
よく見れば飲み屋の看板に灯りがともっていないのである。

お店の人が看板のスイッチを押し忘れたりして、
このようなことは今までに何度かあったので、
あまり気にせずに店に到着した。

看板には灯りがないのに、薄暗い入り口の引き戸の前には、
多くの自転車が止めてあり、
引き戸には「今夜は貸し切りです」という張り紙があった。

どこかの会社の忘年会でも開かれるのだろうか、
しょうがないなぁ、と踵を返しかけたが、
折角足を運んだのだから挨拶だけでもしておくかと、
途中で気が変わり、おそるおそる引き戸を開けた。

顔をのぞかせた途端、奥から女将が出てきて、
「あっ、北さん来てくれやはった」と嬉しそうな声で
出迎えられた途端に思い出した。

今夜はなじみのお客だけが集まって
三年振りに忘年会をしようと言われていたことを。
コロナ前は毎年忘年会や花見を馴染み客が集まって開催していた。

いつも座るカウンターの席をすり抜けて、
奥へ続く細い通路を進むと、宴会のできる和室がある。
そこにはもうふたつの鍋がぐつぐつと煮立っていて
おいしそうな匂いを発散していた。

席に着くなり遅刻したことをみんなに叱られて、
謝って、改めて乾杯をした。
顔ぶれのほとんどが後期高齢者ばかりなので、
体になじんだ昔からのなつかしい宴会である。

わたしは五分も経たないうちに、すぐに雰囲気に打ち解けて
もう忘年会を忘れたことも忘れて、高齢者の宴会は盛り上がるのでした。



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sceneryのひとこと

忘年会、英語ではイャー・エンド・パーティである。
英語の方が宴会の実態を正しく反映しているような気がする。
「忘年会」という日本語のネーミングは
何となく先人達の生活の苦しさが感じられる。
あるいは全てを水に流すことが美徳とされる日本の文化の反映かも。

今回の忘年会。どちらかといえばわたしに合せて木曜日に設定してくれたのに、
それを全く失念した失態は、他の人にはわからなかったと思うが
衝撃に近いショックだった。

直前の木曜日はGOTOトラベルを利用しての
旅行に出かけていたので店に飲みに行けなかったというのも
大きな理由になっているが完全にゆるみと油断があった。

最近は大切な約束や出来事があるときは、
必ずメモをするようにしている。
カレンダーに書き込み、
冷蔵庫に張り付けてあるホワイトボードにも書き込み、
パソコンのスケジュールアプリにも書き込む。

こうして2重3重にガードして、
衰えた記憶力を何とか外部のメモリーに助けてもらっているのである。

ところが今回はどうせ木曜日には飲みに行くのだからと、
一切メモを取らなかった。
そして案の定、完全に忘れてしまった。

あの時ちょっと挨拶だけでもと店の戸を開けたので、
大した失敗にはならなかったが、
あのまま家に帰ってしまえば嫌な記憶としていつまでも残ったと思う。

教訓!!
過信せず、油断せず、記憶力が衰えに衰えたことを忘れずに、
メモメモメモ、必ずメモを取ること。



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