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            文章スケッチ   NO.0043
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善意のバトン

近所の大型スーパーに買い物に出かけた。
土曜日だし混むだろうと昼食が終わり、
夕食の支度にかかるにはまだ早い午後2時頃に出かけたのだが、
それでもかなりの買い物客で混みあっていた。

買い物リストのメモを見ながら全ての買い物を終え、
6台から7台も連なっているレジに並ぼうとしたが、
全てのレジでお客が列を作って待っている。

わたしも適当なレジに並んだ。
やっとわたしの番が来て、決済を待っているとき、
バーコードの読み取り器を操作しているパート社員の手が止まった。
多分50代にはなっているおばちゃんの社員である。

わたしが購入した袋入りのみかんのひとつが
腐敗しかけているのに気がつかれたようなのである。
「すみません、これ交換してきます」とレジを離れ、
小走りで遠くの果物コーナーに行って、同じ商品を手にして、
またレジまで走って戻ってこられた。

次のお客さんが待っているにもかかわらず、
商品を選んだのはわたしの責任なのだから、
黙ってバーコードを走らせればそれで済んでいたところをである。
多分主婦としての矜持がそれを見過ごすことを許さなかったのだろう。

「御親切にありがとうございます」大きな声ではっきりと
謝意を伝えてその場を後にしたが、
せめて胸の名札を確認して名前だけでも覚えておこうと
振り返ったが彼女はもう次のお客の応対にとりかかっていた。

家に帰って妻にこの話をすると、
いたく感激して「あんた文章書けるんやろ、店に投書し」
と言われた。
「投書するといっても相手の名前もわからへんし」
と渋っていたのだが
「確かレシートには担当者の名前が書かれているで」
と言われ、確認してみると担当XXXという記録が残っている。

名前がわかるのならと、わたしもその気になった。
彦根店のホームページを調べてみたが、投稿する場所がない。
関東にある本社には「お客様の声」という投稿欄があった。
ほぼ苦情に対応するコーナーのようだったが、
ここに今日の出来事を書いて送信した。

その日の夕食時のことである。
電話がかかってきた。出ると彦根店の店長からである。
「どうもありがとうございました。励みになります」
心なしか店長の声も弾んでいる。
「いえいえ、こちらこそお世話になりました。よろしくお伝えください」
通り一遍の挨拶があって、
「明日のミーティングでみんなに伝えます」
最後にそう言って電話は切れた。

パートの彼女が最初に渡してくれた善意のバトン。
一度は取り落としたバトンだったが、妻が拾ってまた私に渡してくれた。
そのバトンは一度本社という広いトラックに出て、
善意のバトンは再びわたしに返ってきた。

主役の表彰式は明日の彦根店のミーティング。
担当のXXXさん、お世話になりました。おめでとう。よかったね。



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sceneryのひとこと

以下の文章がわたしが本社に投稿したそのままの内容です。

2023.01.21 14時頃
ベイシア彦根店にて。

レジでの決済を待っている時、
わたしの購入した袋入りのみかんのひとつが
少しあたっているのに気がつかれたようです。

わたしも気がつかなかったぐらいなのに、
「すみません、交換します」と
決済が終わった後、小走りで果物コーナーまで走り、
また小走りで帰ってきて商品を交換してくださいました。

決して暇だったわけではありません。
次のレジに一人待っておられました。
それでも交換に走ってくれたのです。
知らんふりをしてレジを通してしまえばそれで済むところを・・
ほとんどの人はそうすると思います。

お客様本位のこの行為には感心しました。
だからこうしてお礼の文章を書いています。

受け取ったレシートには担当XXXとありました。
レジNO102 レシートNO1262。
よろしくお礼を伝えておいてください。
貴社の益々の繁栄を心よりお祈りいたします。



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