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            日常の風景   NO.0094
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8月1日の夜

日中は読売テレビ主催「鳥人間コンテスト」の選手権大会。
夜は、わたしの大好きな花火大会。
8月1日は、彦根市民にとって、夏の行事のクライマックス。

ただ、今年の花火大会は、
わたし個人にとって、例年とすこし違っていた。

いつも一緒に花火を見る相棒に、用事ができたのである。
ひとりで、あのにぎやかなメイン会場に出かける気はしなかった。
かといって、家の窓から、遠くのちいさな花火を見るのもさみしい。

そこでふと思いついたのである。
取り壊された、近江絹糸の工場跡地が、まだ更地のままで残っている。
障害物はなにもないし、打ち上げ会場の真正面にあたる。
今年はそこで見ようと。

折りたたみ式のパイプ椅子と、絶対に欠かせない缶ビールを持って、
工場跡地に着いたときは、夜のとばりがおりた直後だった。
東京ドームの倍ほどの巨大な面積が眼の前に広がっている。

もっと人が多いと思ったのであるが、敷地の中に入っているのは
せいぜい、4、50人ほどだった。

もっとも工場の跡地は、侵入者を、低いロープで形だけ拒んでいるので、
入らないというのが、清く正しい生き方だとは思ったが、
今まで一度も入らなかったし、明日からも入らないということを、
自分に堅く誓って、今夜だけ入れてもらった。

地面は、埋め立てに運ばれてきた瓦礫の海である。
歩きにくいし、暗い。
どちらに行っていいのか目標がない、方向が決まらない。
羅針盤を持たない小船が、大海に投げ出されたような気分である。

しばらくあてもなく歩き続けると、人影がまったく見えなくなった。
そして、花火の打ち上げが始まったのである。
どーんという、最初の音が聞こえたところを着地点と決め、パイプ椅子を開いた。

打ち上げ会場の近くで、真正面に位置するにもかかわらず、
わたしの回り、100メートル四方には、誰もいないという、
きわめて、贅沢な花火見物になった。

このような状況は、絶対的な権力を持つ、よほどの人嫌いの、専制君主しか
実現することができないのではないだろうか?

残念なことに、わたしは人嫌いでも、専制君主でもない。
純粋に、花火だけを見るという状況に、なにか居心地の悪いものを感じていた。
ビールもあまりうまくない。

回りにまったく人がいないということは、
歓声も、ためいきもなにもないということである。
ただ、遠くの山にこだまして、重奏的に響く、
火薬の炸裂する音が、からみつくようにいつまでも耳に残った。

花火はやはり、ため息、吐息、歓声、嬌声、夜店の売り声、
雑然とした雰囲気のなかで見るのが、正しい見方だと思う。



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sceneryの風景

「鳥人間コンテスト」の会場は、家から、自転車で10分ほど走ったところにあります。
だから、最初の頃は、めずらしさもあって、よく見に行きました。

しかし、テレビで見るほどいいものではありません。
テレビの鳥人間は2時間の放映の間、次々とテンポよく飛んでゆきますが、
実際は2日間に渡って撮影されたものです。

なにしろ、一機飛べば、飛ぶというより、
巨大なジャンプ台から湖に落ちるだけという飛行機も多いですが、
とにかく、機体の後始末に手間取り、次の飛行機が飛べるのに
30分ぐらいはかかるのです。

その間、ギャラリーは、ぎらぎらと照りつける夏の日差しの中をだだ待っているのです。
飛ぶのは一瞬。ほとんどが待ち時間です。

だから、だんだん見に行かなくなりました。
ところが今年は、曇りで、風もあり、日曜日で暇もありで、
久しぶりに見に行きました。

ですが、結果は最悪でした。
見るコンディションは最高でしたが、
風が強すぎて、飛べないのです。
1時間会場にいましたが、一度も飛べませんでした。

ほんとうは、自然の力になすすべもなく、
風が止むのをみんなでただひたすら待っている。
このようなシチュエーションは嫌いではないはずなのです。

定期的にきちんと巻かれたバネをゆるめるには、
1日か2日の休みでは無理みたいですね。



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