*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            日常の風景   NO.0168
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

相棒を見失う

ニュージーランド南島のネルソンからフランツ・ジョセフまで、
長距離バスで10時間も揺られていた。
途中での食事やトイレタイムを差し引いても
9時間はしっかり乗っていたことになる。

でも、案外と苦痛ではなかった。車窓がすばらしいからである。
広大な牧草地があり、険しい山岳地帯があり、穏やかな湖があり、
ゆっくりと流れる川や、絵本のようなかわいい小川など、
夢のような景色が途切れることなく続き、飽きることがない。

フランツ・ジョセフに着いたのは17時を過ぎていた。
到着が遅いので、もう観光はできないと諦めていたのだが、
フランツ・ジョセフ氷河を見に行くシャトルバスがまだ走っているとのこと。
早速、ホテルのフロントに申し込む。
明日朝早く、すぐに次の観光地ワナカに移動する予定なので、
もし、観光するとすればその日しかなかったのである。

山と山とに挟まれた渓谷に氷河の先端があった。
頂上まで続く巨大な氷塊の重量に押し出されるようにして伸び出している。
遠くから見ると、氷河というよりは白っぽくて長い岩塊のようである。

シャトルバスの駐車場から氷河まで往復で30分。
駐車場に戻ったとき、帰りのバスが来るまでにまだ時間が30分あったので、
別のトラッキングコースを歩くことにした。

ニュージーランドは、いたるところにハイキングのコースが整備されていた。
案内板を見ると、リターンで25分のコースと書いてあった。
いままでの経験から、案内板の表示は
ゆっくり、のんびりと歩いて25分の意味である。ちょうどいい時間になる。

わたしは写真を撮りながら、ゆっくりと歩いた。
相棒は先をひとりでどんどんと歩いていった。
よく整備された一本道だから、別に心配はない。

25分コースの観光ポイントに着いた。
池があり、池のまわりにベンチが置かれている。
遠くに氷河が見え、池にはその氷河が映り込み、なかなかの風景である。

ベンチに座って、ゆっくりと景観を楽しんでいたが、
相棒の姿が、近くに見えないのが気になった。
多分、もうすこし先まで足を延ばしたのだろうと、
ベンチに座ったままで待っていたが、いつまで経っても帰ってこない。
さすがに心配になって、わたしも先に進むことにした。

先に足を進めながら大声で「オーイ」と叫んでみる。
返事がない上に、夕暮れに近い時間帯のことである。人の気配さえしない。
濃い緑の深い森のなかにひとりぽつんと取り残されたような不安を感じた。

ひょっとして、彼女はリターンの意味をアラウンドの意味と取り違えているのか。
ここのコースは25分、1時間15分、2時間のコースがあったが、
山に深く分け入るばかりの、リターンコースのみである。

もし取り違えていてどんどん先に進めばえらいことになる。
相棒は普段はとても慎重な人なのだが、
ときどき考えられないほど大胆な行動をとることがある。

このまま暗くなればどうなるのだろう。不安が募ってくる。
「オーイ、オーイ」と声を限りに叫びながら、足を速める。
そして姿は見えないが、やっと「ハーイ」という声が山の奥から返ってきた。
この返事が聞こえたときは、心の底から安堵した。

疲れ切ってホテルに戻り、近くのフードセンターから、
ハムサンド、卵サンド、クッキー、りんご、バナナ、ぶどう、ハム
それに赤ワイン、ビールなどを買い込み、部屋に持ち帰る。

ビールもワインもおいしかったが、
相棒が無事な姿で、横でにこにこしているのがなにより嬉しかった。



----------------------------------------------------------------------
sceneryの風景

ニュージーランド北島
http://www.geocities.jp/scenery_jp/newzealand1/newzealand1.html

ニュージーランド南島
http://www.geocities.jp/scenery_jp/newzealand2/newzealand2.html

ニュージーランドの旅行記のような風景は、
今回で最後にします。
まだまだエピソードはあるのですが、どうしても日記のようなスタイルになるので、
多分読んでいてもおもしろくないと思います。

わたしは自分のHPのトップ画面に、メモを取ることのたいせつさを
書いていますが、旅をふりかえってみて、あらためてそのことを痛感しています。

まだわずか1ヶ月前のことなのに、メモを取っていない風景は
ほとんど思い出すことができません。

ですが、わずか数行のメモがあれば、それを手がかりにして、
そのとき風景、雰囲気、気分などがあざやかに甦ってくるのです。
次に書こうと思っていたテカポのメモを、手を加えずにそのまま公開します。
このメモは割合にまとまって書いていますが、
もっと短いメモのほうが多いです。


テカポ

楽しみにしていたマウントクックは雨。
テカポに着いたら強風。

バスを降りて、とりあえず今夜の宿を捜さなくては。

目についたホテルに飛び込むと、空いているのはダブルベッドがふたつある、
4人が泊まれるグレードの高い部屋のみ。140ドル。

1泊100ドル以下の、方針に合わないので返事を濁していると、
もっと安い宿を、地図を書いて紹介してくれたが、
あまりの強風に、動きたくない気分。

しぶしぶ承知をして部屋に入ると、
これがレイクビューのすばらしい部屋。
目の前に見えるテカポ湖はコバルトブルーに輝いている。
羊飼いの教会もよく見える。虹もでている。

悩みの種だった強風も、やわらかな草が風になびいていい感じ。

近くにスーパーに行って、サンドイッチ、果物、ジュース、ビール、ワインなどを買い込む。
ホテルの部屋から、テカポ湖をながめながらの夕食は最高。

テカポにあるのはこの風景だけ。人口100人ほどの田舎なのである。
他にはなんにもない。徹底的になんにもないのがまたいい雰囲気。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『めろんぱん』 (マガジンID: 2179) http://www.melonpan.net/
『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/
『メルマガ天国』 (マガジンID: 8289)   http://melten.com/
『E-Magazine』 (マガジンID: scenery1) http://melten.com/
『カプライト』 (マガジンID: 4327) http://kapu.biglobe.ne.jp/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/  からお願いします
----------------------------------------------------------------------