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日常の風景 NO.0177
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長城の人形
一度は見てみたいと熱望していた万里の長城は北京市内から約75キロ離れた場所にあった。
高速道路を使ってバスで1時間足らずの距離。ずいぶんと山深いところだ。
バスから見上げるようにして、ガイドが指し示した長城の入り口は、山の中腹にあった。
まるで登山道にでも分け入るように、バスはうねうねとした坂道を、
右に左に蛇行しつつ、長城の入り口をめざす。
2000年以上に渡って造り続けられ、延べ約6000kmの造営物。
エジプトのピラミッドやカンボジアのアンコールワットでさえ、比較にならないほどの規模である。
壮麗な無駄としか表現のしようがない。
現在、北京で観光地化されている万里の長城は、正式には「八達嶺」と呼ばれている。
延々と続く巨大な土塁の城壁の表面が、レンガで覆われている。
凹凸状の矢ざまのある壁面が城外、つるりとした何もない壁側が北京方向となる。
壁面と壁面の幅は、およそ5〜6メートルあり、
所々、関所、駐屯所、のろし台などがアクセントのように配置されている。
だが、長城にたたずんで、悠久の歴史的感慨に浸るような雰囲気とは程遠い。
国内外から観光客が押し寄せてくるために、
坂道でうねっている、レンガ造りの通路は、まるで土曜夜市の歩行者天国並みの人出である。
それだけではなく、人でごったがえす通路には、
一枚のござやひとつの机を店舗にした、チープなみやげを商う露店が軒を連ねている。
長城の坂道に疲れて、矢ざまで休憩をしていると、
ござさえも持たない、行商のみやげ売りが、必ず声をかけてくる。
やれ絵葉書やら帽子やら工芸品など、
品物を見せて「50元とか30元」とか言うので、いらないと首を左右に振ると、
「いくら?いくら?」と向こうから値段を聞いてくる。正直なところ、無料でもいらない。
旅にでて、家に持ち帰るものは写真と思い出だけというポリシーのわたしにとって、
みやげもののたぐいにはまったく興味がない。
そんなわたしだが、あるおもちゃ売場で足を釘付けにされた。
簡単な白い布を敷いたござの上で、10cmぐらいの布でできた人形が踊るのである。
ゆっくりと歩いているかとおもえば、次の瞬間には空中でくるくると何度も回転をする。
あるときはタップダンスを踊り、あるときはアクロバットを繰り広げる。
なんでもない簡単な人形にもかかわらず、その玄妙な動きは変幻自在であった。
ござの前には、この人形には電池などのたぐいは一切使っていませんと書いてある。
もちろん中国語で書いてあるのだが、漢字なのでなんとなく読めてしまう。
わたしが興味を持ったのがわかると、当然声をかけてくる。
売り手は生活力のたくましそうな、中年の女性だった。
「100元」約1600円という声を無視して、
「何でこの人形動いているの?一度見せてよ」と何度も要求したのだが、
彼女は決して人形には触らせようとはしなかった。
やがて「2個で100元」といった。
わたしは人形のカラクリに興味があったので、
「2個で10元」と冷やかしに言ってみたら、渋い顔はしたが、呆気なく商談がまとまってしまった。
帰りのバスの中で、早速透明の袋に入っている人形を空けてみた。
かわいいうさぎのような顔をしているが、耳、目、口、鼻などはボンドでくっつけてあるだけ、
胴体は無く、顔のすぐ下にリリアンの紐でできた足がくっついている。
もちろん自然に動く仕掛けなどはどこにも見当たらない。
中国語で簡単な説明書が入っていた。
中国人のガイドに読んでもらおうとしたが、彼は読むまでもなく、
「ああ、これはトリックですよ」と言った。
「白い布で見えなかったと思うのですが、糸がついています。ほら」と言って、
人形にくっつけられていた細い透明の糸をわたしに見せた。
その糸を両手に持って、伸ばすように広げてみると、人形はぎこちなくジャンプする。
縄跳びのロープを回すように、くるくるさせると、人形も回転する。
このようなだましは、だます方も、だまされる方も、一種のジョークのようなものだから、
納得ずくである。腹も立たない。それにしても見事なテクニックだった。
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sceneryの風景
この人形に興味があれば(ただの人形ですが)北京写真の最後に追加しておきましたので、
また見てください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp/pekin/pekin.html
北京でのバスの車窓の風景を見るのは、なんとなくくたびれる感じがした。
看板の漢字がくたびれの原因である。
もし、これがアラビア語ならまったく読めないから、絵を見てるのと変わらない。
英語なら、単語を知っているか、知らないかのどちらかで割り切れる。
ところが、中国の漢字は、わからないが何となく推理ができてしまう。
それにその漢字も、日本のものとは微妙に異なる、簡略化されたものがあって、
これまた、あの字かな、この意味なのかなと、
四六時中、パズルを解きながら、車窓をながめているような気分にさせられる。
たとえば、北京の写真にも追加しておいたが、
バスの中に「保持清ケツ」と書いてある。ケツの字は日本には無い漢字なのだが、
セイケツと読めて、意味もわかる。
その右の標語は
「請勿吸烟」と書いてある。「請」の字が「清」に見えて変な感じだが、請うという意味である。
英語で言えばプリーズであり、中国の看板には非常によく出てくる漢字である。
「勿」この字は、ガイドに尋ねた。「しないで」という否定形である。
要するに、プリーズ、ドント、スモークと書いてある。
このように、なまじ意味が推測できるから、非常に疲れたのである。
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