*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*
            日常の風景   NO.0258
*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*

地球儀

NHKの大河ドラマ「龍馬伝」を見ていると、
小道具として地球儀がよく持ち出される。
世界のなかの日本という地理的な関係を納得させるのには、
地球儀を前に説明するのが、一番てっとり早い。

咸臨丸を指揮し渡米した経験がある勝海舟が
地球儀を龍馬に見せ日本を指さすと大袈裟に龍馬が驚愕する。
ステレオタイプ化された、典型的なドラマのワンシーンである。

幕末で実際に地球儀を目にできた日本人は何人いたのだろうか?
地球儀に具体的に触れることのできた知識人も、
平面的な地図を、ただ丸くしたぐらいの実感しか持てなかったのではないのだろうか。

わたしの小学校時代、もちろん地球儀は学校にはあったし、
手塚治虫の鉄腕アトムも熱愛していて、
漫画からではあるが、宇宙のこともすこしは知っていた。

だが、低学年の頃は人々が地球という丸い球体のなかで暮らしていると
思い込んでいたフシがある。何かそこら辺りが、あいまいで
観念としての地球と、実際に暮らしている地球との結びつきが実に弱かった。

地球に住みながら、地球という星を客観的に見るのは、
知識は豊かでも生活の実感としてとらえることは難しい。

150年前の幕末に比較して、現在のわたしたちは素晴らしい時代に生きている。
本物の地球がまるで地球儀のように宇宙空間にぽっかり浮かんでいるのを
映像で目にすることができるのである。

アポロ計画以来、月から見た地球の映像は何度も見ているはずであるが、
わたしのパソコンのなかにある日本の人工衛星「かぐや」からの映像は
ハイビジョン撮影のより身近で鮮明なものである。

漆黒の宇宙空間は、ただ果てしなく茫漠と広がる闇である。
その広さを認識する手がかりさえない、まったくの虚無の世界。

わずかに湾曲した月の地平も、ただ白と黒だけが支配する世界。
そんな地平から、輝くような鮮やかなブルーに染まった地球が昇ってくる。
何度見ても見飽きることがなく、そのたびに感動できるシーンである。

漆黒の宇宙空間にたったひとつ浮かんでいる青い地球は、
とても孤独である。繊細で今にも壊れてしまいそうな危うさがある。
多分奇跡の星だ。

白い雲の間から、インド洋が見える。大陸も見える。
国境なんてどこにもない。

幕末に初めて地球儀を見せられ、世界の息吹きを肌で感じた日本人。
「かぐや」からの映像は、幕末以来の、また新たな地球儀であるとわたしは思いたい。
人類にとっての黒船のようなものであって欲しい。

この映像を世界中の学校の児童、生徒に見て欲しい。
本来なら、国境をめぐるチマチマとした紛争や、貧困、民族問題など、
人類の英知がとうの昔に解決していたとしても不思議ではない。

核兵器の開発や戦争に使うお金を、惜しみなく使えば可能だったはずだ。
人類はいつの間にか、制御不能の滅びの道へと足を踏み出しているように思える。

今からでも遅くない。この映像を世界中の学校にメッセージをつけて配って欲しい。
世界の子供たちに、青くて、繊細で、国境のない、
孤独でかけがえのない地球の姿を見つめて欲しい。



----------------------------------------------------------------------
sceneryの風景

小惑星イトカワの岩石採取に挑んだ、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還も、
久しぶりに心躍るニュースでしたね。
7年間にも及んだ宇宙の旅。ご苦労様でした。

通信が途絶えたり、メインエンジンが動かなくなったり、
さまざまなトラブルを乗り越えた、日本の技術陣には
心からの拍手を送りたいと思います。

最初は、
「アメリカもやらないような挑戦、できるわけがない」と
散々陰口をいわれた船出だったそうですが、
使命を終えて、燃え尽きる「はやぶさ」の映像を見ていると、
思わず涙ぐんでしまいました。

お見事でした。そしてありがとう。
たとえ、カプセルに何も入っていなくても、
いっぱいに詰まった夢を地球に持ち帰ってくれましたね。



----------------------------------------------------------------------
発行者 scenery
north@arion.ocn.ne.jp
HP 日常の風景
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/

----------------------------------------------------------------------
日常の風景が本になりました。ご覧ください。
http://www.geocities.jp/scenery_jp2/book/book.html

----------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、

『めろんぱん』 (マガジンID: 2179) http://www.melonpan.net/
『メルマ』  (マガジンID: 50779) http://www.melma.com/
『まぐまぐ』 (マガジンID: 79888)   http://www.mag2.com/
『E-Magazine』 (マガジンID: scenery1) http://melten.com/

を利用して発行しています。

----------------------------------------------------------------------
メールマガジンの退会・解除は
http://www6.ocn.ne.jp/~scenery/  からお願いします
----------------------------------------------------------------------