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            日常の風景   NO.0349
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河原の露天風呂

カニ料理をはじめとする、典型的な温泉旅館のごちそうをたらふくいただき、
ビールや焼酎を十二分に楽しみ、
部屋に帰ってとりとめのない話をだらだらと続けていても、
まだ時間は8時前でしかない。

温泉旅館の夜は案外時間が経つのがゆっくりである。
家でいつでも見られるテレビを点けるのも何んだか気が進まない。
そんなとき家内が「外に出よう」と張り切った声を出した。

今回の旅のメンバーは滅多にない組み合わせである。
わたしと家内と息子の3人連れ。
2泊3日の旅を息子が計画してくれた。

通常なら旅の計画は息子、費用はわたし達が持つというパターンだったが、
今回はどうしたことか一切の費用も息子が出すといってくれた。
まったく初めてのことである。

この辺で一度ぐらい親孝行の真似事でもしておこうと思い立ってくれたようだが、
正直気持ちが嬉しかった。
特に家内は手放して喜んでいた。

息子のワゴン車に乗せられて、三朝温泉と湯原温泉への旅。
2日目の天気は生憎だった。
境港の「水木しげる記念館」から湯原温泉に向かう途中で雨が雪に変わった。

この時点で湯原温泉の河原に作られた露天風呂に入浴することは諦めた。
西の横綱と呼ばれている自然のなかの名物露天風呂。
一年前のリベンジのつもりで今回は楽しみにしていたのだが、
一年前の雨に引き続いて、今回もツキがなかったと諦めるしかなかった。

だが家内の「外に出よう」の一言で再度のチャレンジに状況は動き出す。
旅館の浴衣の上にコートを着て、その上に旅館の丹前を羽織り、
靴を履くという奇妙奇天烈な格好で外に出ると風が冷たく寒い。
いつの間にか雪は降り止み、空には満点の星が輝いていた。

川沿いの温泉街に人の姿はなく、
わたし達3人だけが砂湯をめざし20分以上もかけてトボトボとひたすら歩く。
周りの雰囲気からして露天風呂にも人はいないだろうと思っていたのだが、
3人の先客がすでに入浴していた。

混浴と明示されているし「わたしも入るで」とテンションの高い家内だったが
男性の先客がいれば水着の用意のない家内はさすがに躊躇した。
気の毒に寒空の下、ポツンとひとりで待つ羽目になってしまった。

憧れの露天風呂に入浴した正直な感想だが、
3つほどある岩で囲まれた湯船のお湯はぬるめである。
自然の環境にさらされているので冷めるのが早いのかもしれない。

湯船の底は何の加工も施していない河原の砂利である。
移動するときは足の裏が痛い。
旅館の湯船のつるつるしたタイルの感触がありがたいと思った。

深さも自然の河原の状態なので深い場所や浅い場所がマチマチ。
大きな岩が置かれている入り口が自分の感覚より深くて、
おもわずバランスを崩したりした。

しかしながら自然の中に融けこんでいるというこの開放感。
先客の横には缶ビールが置かれていた。
こんな環境で生ぬるいお湯にゆっくりと浸かりながら
ビールか酒でも楽しむには最高の場所のような気がする。

冷気で澄んだ夜空を見上げれば、星々の中でオリオン座がひときわ輝いていた。
現代人の病理を削ぎ落としてプリミティブな感覚を呼び起こしてくれる露天風呂だった。



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sceneryの風景

三朝温泉に向かう途中、車のなかで息子が何気なく
「ミササというのはいい響きやね」と言った。
同感である。ミササ。音も調子もいい感じである。

でも知らなければ「三朝」をミササと読める人はほとんどいないと思う。
「さ」という文字は日本人の重要な食料だった魚の「さ」だったと
何かの本で読んだ記憶がある。

それが酒の肴の意味になり、酒そのものも「ささ」と呼ぶようになったのだろか?
何の根拠もない自流の説だが
とにかく耳に響きがよいのは原始的な古語と関係しているような気もする。



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